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第3話 推しには勝てなかったよ

☆☆☆


「そっかぁ.....嫌かぁ。なら、仕方ないね。」


「そうだね.....仕方ないね。」


漫画やアニメなら、不吉なオーラと共にゴゴゴゴゴと音が立ちそうな雰囲気を醸し出す。顔は笑っているが、目は光がなかった。


「あの、目が怖いんですけど。」


「ふふふふふ」


「あはははは」


怖ぇ!!超怖ぇよこの2人!!早く逃げ出したい衝動にかられ、なんとか縄を解こうともがく。


だが、縄は一切緩むことは無かった。それどころか、更に締まってるような.....!?


「暴れれば暴れるほど、その縄はきつくなってくる。大人しくしといた方が身のため。」


「そうそう、大人しくこっちを見てみなよ。」


俺は心の中で舌打ちをし、ゆっくりと顔を上げる。そして視界に飛び込んできた光景に、目を疑った。


「そ、それは!!」


いつの間にやら用意されていた机の上に、今では絶対に手に入らない、俺の推しのグッズが置かれていた。


「ど、どどどこでそれを!?!?」


「これ、君の推しキャラだよね。しかも入手難易度MAXのグッズだ。こんな所にあるなんて奇跡じゃない?」


「ケモっ娘フレンズ、可愛いよね。僕も集めてたんだけど.....」


男性の先輩はニヤニヤと笑う。


ケモっ娘フレンズとは、獣が擬人化してデフォルメされたシリーズで、キャラごとに数多くのグッズがある。今俺の目の前に置かれているのは、俺の推しである娘の、数年前に出たグッズだ。


「君が入部するなら、あげてもいいよぉ?」


「します!!入部しますぅ!!」


つい、言ってしまった。欲望には逆らえなかった。


「はいじゃあこれ書いて。」


「書きますぅ!」


人間、時には何かを捨ててでも得たいものがある。それが俺にとって、今だった。プライドや今後の学校生活を捨ててでも、これが欲しかった。


だって、数量限定生産で即完売したやつだぜ?3時間並んだ挙句買えなかったんだぜ?プレ値がつきすぎて、転売されてるやつは高すぎて手が届かないし、あげるなんて言われたら、そりゃあこうなる。


「はい、確かに。ほら、ご褒美だよ。」


「ありがとうございますぅ!!」


男性の先輩からグッズを受け取り、すぐさま緩衝材入りの小物ケースに大事にしまう。そして、ケース越しにじっと眺めるのだった。


なんでそんなもん持ってるのかって?そりゃお前、出先でこういうことがあった時用に決まってるだろう。


「そういえば」


女性の先輩がスクッと立ち上がる。


「まだ自己紹介をしてなかった。私の名前は矢野咲月やのさつき。君のひとつ上、2年生。」


「僕もまだだったね。七瀬実ななせみのる、2年生だよ。咲月とは幼馴染の腐れ縁。」


2人.....咲月先輩と実先輩は、そういってぺこりとお辞儀をした。なんだ、変な人たちだと思ってたけど、ちゃんとしてるんじゃんか。


「あ、ご丁寧にどうも.....俺は」


俺も自己紹介しようとした時、先輩方が先に口を開いた。


葛城渉かつらぎわたる、1年生。ご両親と妹の4人家族で、好きな食べ物は唐揚げ。」


「趣味は読書、音楽、ゲーム、そしてケモっ娘フレンズの収集。公式イベント、同人イベントにもちょくちょく顔を出してると。」


「なんで知ってんだよ!?なんなのこの人達!?」


「さぁ、なんででしょうね。同人サークル『ケモっ娘隊』の副隊長さん?」


怖い!!どっかおかしいよこの人たち!!もうやだうわあぁぁん!!


☆☆☆《》

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