「2033年3月3日天から恐怖のうどんが降って来る」
そんな荒唐無稽な予言を残し、俺の祖父・江古田権左衛門は3年前に息を引き取った。饂飩を喉に詰まらせた事による窒息死だった。
ミステリー研究家である祖父の最期はあっけなく、親戚は嘲笑、マスコミはネタとして取り上げ亡くなった直後は話題になったが、その存在は半年もすれば世間からも忘れ去られた。
「健二! そろそろ引き籠もってないで働いたらどうね!」
ドアの向こうから聞こえる母の声。元々じいちゃん子だった俺は祖父が亡くなった後から自宅へ引き篭もるようになった。
「放っといてくれ。金は入れてるだろ?」
「あんた一体どうやって稼いでるのよ?」
「だから、今は自宅へ居ながらネットで稼げる時代なんだって」
人類の仕事の一部がAIによって成り代わって来た時代。母親はそんな時代から取り残された50代。俺が自宅に居ながらメタバース内のVtuberと安楽椅子探偵で同世代の平均年収かそれ以上稼いでいるなんて言っても到底信じてはくれない。
俺のことはどうでもいい。俺にはやらなければならない問題があるのだ。今日は2033年3月2日。明日、運命の日がやって来るのだから。
「ともかく、被害を最小限に食い止めなければ、放っておけば日本は終わってしまう」
大丈夫だ。ここまで入念に準備をして来た俺に死角はない。
★う★ど★ん★
時は遡り、2020年4月7日。新種のウイルスによる未曾有の大災害により、政府は濃厚接触を絶つべく緊急事態宣言を実施した。そして、その半年後、その頃まだ無名だった江古田権左衛門が数年前に世に送り出し、見事に売れず絶版となっていた予言本がこの新種のウイルスによる災害を予言していた事を誰かが見つける。
SNSより噂は広がり、緊急事態宣言明けより江古田権左衛門はメディアへ出演するようになり、一躍時の人となった。当時、俺は中学生。この頃はまだ、祖父はただのミステリーとうどんが好きなじいちゃんで、適当に予想したものが当たってしまったんだろうくらいに思っていた。それよりは運動会や修学旅行など、青春時代に送るべきイベントが新種のウイルスにより全て中止となってしまったことに嘆いていた俺は、時の人となったじいちゃんも恨むようになっていた。
やがて、緊急事態事態がようやく明け、親戚の集まりが世間の間で再会された頃、正月に親戚一同集まった席で俺はじいちゃんへ呼び出された。
「健二……お前、パソコン詳しいだろ?」
「ん? まぁ詳しいけど、どうした? じいちゃん」
親戚がお酒の席で盛り上がる中、誰も居れた事がないという書斎へ連れて行かれた俺は、その部屋へ入った瞬間、驚きの言葉を聞いた。
「安楽椅子探偵、異世界裏打会はお前だろ?」
「どうしてそれを?」
「お前のじいちゃんだからさ」
当時趣味でやっていた異世界裏打会。安楽椅子探偵なんて流行る訳がない。俺のスペースやSNSより来る依頼も月数件。フォロワー2桁の活動に何故じいちゃんが気づいたのか?
だけど、1年365日うどんばかり食べている胃袋と思考がぶっ飛んでる人物位にしか思ってなかった祖父の不思議な力を俺はこの時を境に信じるようになっていたんだ。
「未来の希望となりうる安楽椅子探偵へ、儂から依頼じゃ」
「なんだよ、じいちゃん」
「2030年に儂は死ぬ。2033年に来るべく人類の危機を、お前の手で救ってくれ」
「は?」