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第十二話 魔王爆誕

焼け焦げた瓦礫の中、スカーは膝をついていた。


焦げた髪飾りを胸に抱き、燃え尽きた家の前で、何も言えず、ただ呆然と空を見上げている。




スカー「……すまない……守れなかった……エレン……」




その声はもう、誰にも届かない。


剣を振るう力も、正義を語る資格も、自らの中に残っていないように思えた。




そして、その静寂を破るように――




「その涙、実に滑稽だな」




背後から、乾いた声が響いた。


スカーの肩がぴくりと震える。




スカー「ヴァル……」




ゆっくりと振り返る。


そこにいたのは、黒い外套を翻し、余裕の笑みを浮かべたヴァル=クロノス・ドレイガだった。




ヴァル「貴様は、弱すぎたのだ故に“正義の騎士”が、女一人守れなかった」




スカーは立ち上がる。


剣を抜き、ふらつきながらもその刃をヴァルに向ける。




スカー「……お前を、止める。エレンを……国を蝕む貴様を、ここで終わらせるッ!!」




ヴァル「愛する者すら守れないお前がか?」




スカー「……黙れ…」




ヴァル「お前がもっと強ければ結末は変わっていただろう。裏切られ、奪われ、すべてを失ったお前に今更何ができるというんだ!?」




スカー「黙れっっ!!」




怒りと憎しみで我を忘れヴァルに切りかかるスカー。




ヴァル「貴様の“光”など、この“闇”には届かない――シャドウパイク影穿の槍――」




影から突き出す黒い槍でスカーの光の剣はあっさりと打ち砕かれ腹を貫かれる。




スカー「がはッ……!」




ヴァルが、冷たく言い放った。




ヴァル「貴様には、守る力などない。貴様のその正義も光もただの虚構にすぎん、それだけだ」




スカーの瞳から、色が消える。


絶望が心を飲み込もうとする――その時。




耳元に、囁くような声が響いた。




「……モトメヨ……」




スカー「……誰だ……?」




「力…ヲ……モトメヨ…」




(……力……)




「絶大ナル…力ヲ以ッテ…ソノスベテヲ喰ラウガイイ」




(……俺は…力を……モ・ト・メ・ル)




次の瞬間。


地面が黒く染まり、スカーの身体を覆うように禍々しい魔力が溢れ出した。


スカーの髪は銀から黒へ、瞳は金から深紅へと変わり、全身から噴き出す魔力は王国最上級魔術師すら凌駕する“魔そのもの”だった。




ヴァル「…堕ちたか」




ヴァル不敵な笑みを浮かべて闇へと姿を消した。


スカーが立ち上がる。地面はひび割れ、周囲の木々が黒い瘴気に焼かれて崩れ落ちる。


そして、横たわるエレンの遺体を黒き炎で焼き尽くす。




「悪しき炎で弔うことを許してほしい…これが我に残った人の心の最後だ…」




その声は、もはや人のものではなかった。


かつて“光の騎士”と呼ばれた男は、今や“魔王”として、生まれ変わったのだ。




王都ルゼリア――


それは五百年にわたり繁栄を誇った聖光の都市であり、王国の象徴だった。




だがその空は今、黒く染まっていた。




「な、なんだ……この魔力は……!?」




「敵は……一人!? たった一人に……我らが城が……ッ!!」




炎が噴き出し、大地が割れ、兵士たちは恐怖の叫びを上げながら倒れていく。


砦は崩れ、魔術障壁は一瞬で破られた。




空に浮かぶ影――


それは全身を黒い魔力に包み、冷たい赤の瞳を持つ男。




「……我が名は、スカー・ブルート。影の王 スカー・ブルートだ」




その手から放たれた闇の最上位魔法――影の雷撃シャドウボルト――で、黒い雷が王都中心部を呑み込み、王宮の尖塔を破壊した。


白騎士団は壊滅、魔法局は壊滅、防壁は消滅。王国は、崩壊した。




王宮の玉座にて、最後に立ちはだかるのはただ一人。


――国王レオハルト・エルディアス。




深く傷つきながらも、王は剣を抜き、スカーの前に立つ。




レオハルト「スカーヴェルよ……貴様がここまで墜ちるとはな……」




スカー・ブルート「……王よ。お前が守ろうとしたこの国は、すでに死んでいる。正義を騙り、真実を葬り、罪なき者を犠牲にしてきた国を、俺が粛清したにすぎない」




王は言葉なく剣を振るう。老いた身体でも、信念の一太刀は鋭く、重かった。




だが、圧倒的な魔力の差――




スカー・ブルート「終わりだ」




スカーが右腕を掲げ、禍々しい闇の刃を生み出す。それが王の腹部を貫いた。




レオハルト「ぐ……ふ……」




血を吐き、膝をつく王。


それでも顔を上げ、スカーを睨む。




レオハルト「……いずれ……必ず……貴様を討つ者が現れる……正義を忘れぬ“光”の使い手が……」




その言葉に、スカーは静かに微笑む。




スカー・ブルート「ならば――その時まで、俺はここで待とう。この玉座にて、“影の王”としてな」




スカーは最後に、王の首元に手をかざし、シャドーボールを放つ。


王は光に包まれ、静かにその命を終えた。




王国ルゼリア、滅亡。


その王座には、“かつて光を信じた者”が、今や“闇の象徴”として座していた。






――――――――――――――――――――――――――――――――――




スカー・ブルートの脳裏に走馬灯のように記憶が溢れ出す。


それは、かつて捨ててしまった人間だった頃の記憶。それが朱雀の炎によって呼び覚まされたのだ。




スカー・ブルート「……なろほど…浄化の炎か…」




身を焼かれながら上空に魔物が監視しているのに気づく。




"策略の魔王ヤツ”の使い魔か




衝撃波を飛ばし使い魔を消し飛ばす。




神「な…何を?」




スカー・ブルート「ふっ…これ以上我が失態を晒すわけにはいかんのでな…」




それに…最後に人の心を取り戻せたことへの礼だ…。


私の魂は天に還ることはないだろう。だが、最後にエレンを思い出すことが出来て良かった…。




(……もう、いいのですか……?)




この声は…。光の中でエレンが微笑みかけている。




(たとえ、どんなになっても私はあなたと共に)




エレン…!ああ、一緒に行こう……。


魂となった二人は強く抱き合い光の粒となって消えていった。

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