焼け焦げた瓦礫の中、スカーは膝をついていた。
焦げた髪飾りを胸に抱き、燃え尽きた家の前で、何も言えず、ただ呆然と空を見上げている。
スカー「……すまない……守れなかった……エレン……」
その声はもう、誰にも届かない。
剣を振るう力も、正義を語る資格も、自らの中に残っていないように思えた。
そして、その静寂を破るように――
「その涙、実に滑稽だな」
背後から、乾いた声が響いた。
スカーの肩がぴくりと震える。
スカー「ヴァル……」
ゆっくりと振り返る。
そこにいたのは、黒い外套を翻し、余裕の笑みを浮かべたヴァル=クロノス・ドレイガだった。
ヴァル「貴様は、弱すぎたのだ故に“正義の騎士”が、女一人守れなかった」
スカーは立ち上がる。
剣を抜き、ふらつきながらもその刃をヴァルに向ける。
スカー「……お前を、止める。エレンを……国を蝕む貴様を、ここで終わらせるッ!!」
ヴァル「愛する者すら守れないお前がか?」
スカー「……黙れ…」
ヴァル「お前がもっと強ければ結末は変わっていただろう。裏切られ、奪われ、すべてを失ったお前に今更何ができるというんだ!?」
スカー「黙れっっ!!」
怒りと憎しみで我を忘れヴァルに切りかかるスカー。
ヴァル「貴様の“光”など、この“闇”には届かない――
影から突き出す黒い槍でスカーの光の剣はあっさりと打ち砕かれ腹を貫かれる。
スカー「がはッ……!」
ヴァルが、冷たく言い放った。
ヴァル「貴様には、守る力などない。貴様のその正義も光もただの虚構にすぎん、それだけだ」
スカーの瞳から、色が消える。
絶望が心を飲み込もうとする――その時。
耳元に、囁くような声が響いた。
「……モトメヨ……」
スカー「……誰だ……?」
「力…ヲ……モトメヨ…」
(……力……)
「絶大ナル…力ヲ以ッテ…ソノスベテヲ喰ラウガイイ」
(……俺は…力を……モ・ト・メ・ル)
次の瞬間。
地面が黒く染まり、スカーの身体を覆うように禍々しい魔力が溢れ出した。
スカーの髪は銀から黒へ、瞳は金から深紅へと変わり、全身から噴き出す魔力は王国最上級魔術師すら凌駕する“魔そのもの”だった。
ヴァル「…堕ちたか」
ヴァル不敵な笑みを浮かべて闇へと姿を消した。
スカーが立ち上がる。地面はひび割れ、周囲の木々が黒い瘴気に焼かれて崩れ落ちる。
そして、横たわるエレンの遺体を黒き炎で焼き尽くす。
「悪しき炎で弔うことを許してほしい…これが我に残った人の心の最後だ…」
その声は、もはや人のものではなかった。
かつて“光の騎士”と呼ばれた男は、今や“魔王”として、生まれ変わったのだ。
王都ルゼリア――
それは五百年にわたり繁栄を誇った聖光の都市であり、王国の象徴だった。
だがその空は今、黒く染まっていた。
「な、なんだ……この魔力は……!?」
「敵は……一人!? たった一人に……我らが城が……ッ!!」
炎が噴き出し、大地が割れ、兵士たちは恐怖の叫びを上げながら倒れていく。
砦は崩れ、魔術障壁は一瞬で破られた。
空に浮かぶ影――
それは全身を黒い魔力に包み、冷たい赤の瞳を持つ男。
「……我が名は、スカー・ブルート。影の王 スカー・ブルートだ」
その手から放たれた闇の最上位魔法――
白騎士団は壊滅、魔法局は壊滅、防壁は消滅。王国は、崩壊した。
王宮の玉座にて、最後に立ちはだかるのはただ一人。
――国王レオハルト・エルディアス。
深く傷つきながらも、王は剣を抜き、スカーの前に立つ。
レオハルト「スカーヴェルよ……貴様がここまで墜ちるとはな……」
スカー・ブルート「……王よ。お前が守ろうとしたこの国は、すでに死んでいる。正義を騙り、真実を葬り、罪なき者を犠牲にしてきた国を、俺が粛清したにすぎない」
王は言葉なく剣を振るう。老いた身体でも、信念の一太刀は鋭く、重かった。
だが、圧倒的な魔力の差――
スカー・ブルート「終わりだ」
スカーが右腕を掲げ、禍々しい闇の刃を生み出す。それが王の腹部を貫いた。
レオハルト「ぐ……ふ……」
血を吐き、膝をつく王。
それでも顔を上げ、スカーを睨む。
レオハルト「……いずれ……必ず……貴様を討つ者が現れる……正義を忘れぬ“光”の使い手が……」
その言葉に、スカーは静かに微笑む。
スカー・ブルート「ならば――その時まで、俺はここで待とう。この玉座にて、“影の王”としてな」
スカーは最後に、王の首元に手をかざし、シャドーボールを放つ。
王は光に包まれ、静かにその命を終えた。
王国ルゼリア、滅亡。
その王座には、“かつて光を信じた者”が、今や“闇の象徴”として座していた。
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スカー・ブルートの脳裏に走馬灯のように記憶が溢れ出す。
それは、かつて捨ててしまった人間だった頃の記憶。それが朱雀の炎によって呼び覚まされたのだ。
スカー・ブルート「……なろほど…浄化の炎か…」
身を焼かれながら上空に魔物が監視しているのに気づく。
"策略の魔王ヤツ”の使い魔か
衝撃波を飛ばし使い魔を消し飛ばす。
神「な…何を?」
スカー・ブルート「ふっ…これ以上我が失態を晒すわけにはいかんのでな…」
それに…最後に人の心を取り戻せたことへの礼だ…。
私の魂は天に還ることはないだろう。だが、最後にエレンを思い出すことが出来て良かった…。
(……もう、いいのですか……?)
この声は…。光の中でエレンが微笑みかけている。
(たとえ、どんなになっても私はあなたと共に)
エレン…!ああ、一緒に行こう……。
魂となった二人は強く抱き合い光の粒となって消えていった。