もういい!と言って、ソファにダイブしてからしばらく動かない俺を気遣ったのか、彼は珈琲でも飲む?とそっと声をかけてくれた。心の中でずっと思っていた。何で俺なんかに優しくするの?優しくしないで。はやく何か求めてよ。
「なあ、そろそろ始めようぜ」
ソファに寝っ転がりながら気だるい声で彼を呼んだ。
「ん?何を??」
彼が珈琲片手にソファに座ってきた。やっぱ期待してんじゃん。
「何って、惚けんなよ。本当はヤリたいんでしょ?」
俺にはこれしかない。これしか俺にはできない。今までみんなこれを求めてきた。これが俺の愛情表現だ。彼にふわりと近寄って、両手で彼のその小顔を包み込むように撫でて、引き寄せる。
「んんっ……あ、んっ……こら、やめろ!」
唇を重ねていたのに、首に腕を回されることもなく、その腕で力ずくで押し退けられた。
「何で〜?気持ち良かったっしょ??」
退廃的に笑いながら、小首を傾げた。
「ぼ、僕にそういうのは、いらない……」
耳まで真っ赤なのバレバレだって。
「そーゆーのいいからさあ、ね?」
結局、気持ち良さに絆されちゃうんだから。と、彼とまた唇を重ねて舌を絡ませると、彼に本気でみぞおちを殴られた。
「ううっ……!!この野郎、ざけんじゃねぇ!!!」
俺はポケットに隠し持っていたナイフを取り出して、激昂したままそいつに向かって振り下ろした。俺がナイフを振り下ろすスピードよりも、そいつがひらりと躱すスピードのが早く、俺がソファを深く切りつけて抜けないナイフに手こずっている合間に、銃口を脳天に突きつけられ牽制された。
「ナイフから手を離せ。……離せ!今すぐにだ!!」
彼の怒鳴る声で俺は酷く屈辱感を味わって、ナイフから震える手をゆっくりと離して、その場に膝から崩れ落ちるようにしゃがみ込んだ。
「何で?……何で!!?」
俺は自分の顔に爪を立てて、ジリジリと引っ掻きながら、不満を爆発させた。
「僕に勝てないことがそんなに悔しいのか?」
「違う!そんなんじゃない!!」
「じゃあ、何だ!」
自分の脳内で言葉にして口にするのも悔しいため、俺は黙り込んで、自分の脚にナイフを突き立てるように勢いよく拳を何度も振り下ろした。
「自傷行為はやめろって言っただろ」
彼は銃口を俺に向けるのをやめて、その銃を握っていた手で俺の手首を掴んで、俺の自傷行為をやめさせた。
「motherf*cker!!motherf*cker!!……ふ、あははっ!!あははははっ!!!」
そう俺が罵って狂ったように笑うと、彼はまた心底、悲しそうな顔をして、俺をぎゅっと抱きしめてきた。
「ごめん。慣れない環境でつらいよね」
彼は俺の耳元でそう囁いた。俺にはそんな彼を抱きしめる権利すらないと思えて、息を殺して咽び泣いていた。