ふふっ、毎日が日曜日だ!俺はレイラと出会ってから、変わった。天才的に料理ができることに気がついちゃったんだ。俺が作るものは全て、美味くなっちゃう!そうノリノリで早起きして、彼が起きるのを料理しながら待っていた。俺一人で朝ごはんを作れたら、きっと彼はとっても喜んでご褒美をくれる。まあ、セックスはしてくれないだろうけど。そう思いながら、ホットケーキをヒョイっとひっくり返した。綺麗なきつね色。やっぱ俺、天才じゃん!!
「イル?何してるの??」
彼が欠伸をしながら、リビングまで歩いてきた。
「見て見て見て、ご主人様!!」
と彼の背中を押して、できあがったホットケーキを見せびらかした。
「え……?これ、イルが……」
「そう!俺が作ったホットケーキ!!凄いでしょ〜!」
彼も俺と同じこのハイテンションで喜んでくれると思ったのに、彼はホットケーキを見つめたまま俯いていた。
「どうしたの?ご主人様、嬉しくない??」
と彼の顔を覗き込むと、彼はなんと泣いていたのだ。
「ううっ……イルのこと、好きで良かった。イルはとーっても良い子だ!」
ボロボロと涙を流しながら、ご主人様は俺を強く抱擁してくれた。俺はご主人様が泣くほど喜ぶと思ってなくて、そんなに俺のことを思ってくれてたんだとわかって、もらい泣きをしてしまった。
「ご主人様、俺、頑張るよ。もう、セックスに頼んないで、愛されてみたい……」
その誓いは、俺の立派な未来へ向けた第一歩でもあるが、俺の過去やアイデンティティを捨てることでもあった。今はとっても怖くて恐ろしい。本当に、できるかどうかもわからない。でも彼は、震える俺をずっと優しく抱きしめてくれていた。そんな彼が俺の傍にいてくれたら、俺は何処にいたって大丈夫
な気さえした。
「イル、満たされる日は絶対に来るよ!」
そう彼は俺の髪の毛を撫でて、そのキラキラした微笑みを見せた。
冷めないうちに、とホットケーキを食卓に並べる。調子乗って焼きすぎたため、三段重ねのホットケーキだ。そこにバターを一欠片とメープルシロップをたくさんかけた。ビジュが良すぎて、何枚も写真に取ってしまった。ニコニコした顔の彼も記念に写真に撮ると、何だかちょっぴり嬉しくなった。暗闇の心にキラキラが、貯まっていくみたいだ。
「ご主人様の笑顔、とってもキラキラしてる!」
俺は彼の写真をスマホの待ち受け画面にした。今まで待ち受け画面なんてこだわってなかったのに、ふとスマホを見た時に、俺まで笑顔になれる気がしたから。
「ふふっ、照れるね」
と微笑みながらパンケーキをナイフで綺麗に切り分けた彼は、その一口大のパンケーキをフォークで刺して、俺の方へと差し出してきた。
「え?」
「あーん。してもいい?」
小首を傾げ、そう聞いてくる彼。こーゆーところが、めっちゃあざといんだ!!と俺はその可愛さに心奪われながら、あーん、とパンケーキを食べた。
「ん〜っ!ご主人様が餌付けしてくれると、もっともーっと美味しくなるね!」
心が跳ねる。突然、踊り出したくなるような、そんな気分だ。今だけは、『この世界は美しい』って意見に頷いてやってもいい。それぐらいキラキラしていて楽しいんだ。
「イル、幸せだね」
ご主人様は甘いシロップがかかったパンケーキを食べて、そう頬を緩めながら同調を促した。
「幸せ……これが、幸せなの?」
俺は俺の幸せの定義が覆されて、不安になっていた。俺の幸せの定義は、最大の快楽を得ることだったから。
「さあね。でも僕は、とっても幸せだよ」
それを言われた瞬間、俺の中の何かがいっぱいいっぱいになってしまって、ボロボロと涙を流してしまった。
「これが、幸せなんだ。……知らなかった。こんなにも、暖かくてキラキラしてるんだね」
虚しい過去が、俺を息苦しくしていく。俺は何にも知らなかったんだな、って。
「イル」
彼は俺の名前を呼んで、ガバッと包み込むように抱きしめてくれた。こんな優しさに触れてしまうとさらに涙が止まらない。
「この瞬間まで、生きててよかった……。レイラに、出会えてよかった……」
涙が止まらない俺を彼は引かないで、うんうんと頷いて頭を撫でてくれる。
「今まで、相当つらかったんだね。これからは一緒に、楽しいことをたくさんしようね」
そう言ってくれる彼の声も涙ぐんでいた。
しばらく一緒に泣いた後、何でこんなにも泣いちゃったんだろうね、って一緒に笑い合った。
「ご主人様ぁ、もうパンケーキ冷めちゃったよ」
なんて俺がどうしようもないと諦念して微笑むと、
「また温め直せばいいよ」
と彼はパンケーキにラップをかけて、電子レンジで温め直してくれた。ラップを外すと、パンケーキのいい香りが湯気とともに顔にかかり、また暖かな良い気分になった。
「ご主人様って、天才!」
俺は温かなパンケーキを頬張りながら彼を称えた。彼はそんな俺に微笑みを向けて、
「イルと一緒だと賑やかで楽しいな」
って俺と一緒にいることを肯定的に言ってくれた。俺自身、彼と一緒にいると、何だか呼吸がしやすかった。