月が浮かぶ夜、空が裂けた。
大地が軋み、星が泣き叫ぶ夜。
その中心にいたのは──
仮面をつけた剣士。“勇者”と呼ばれし存在。
そして、三つの頭を持つ黒き番犬。
──ケルベロス。
地獄の門を護る存在。
魔王の忠実なる使い魔。
そして、彼女たちはまだ“未熟”だった。
『妹たち、今こそ力をあわせるのよ!!』
“紅蓮”の頭が叫ぶ。
“雷光”の頭が突進し、
“蒼氷”の頭が全力の魔力を注ぎ込む。
その牙が、勇者の胸元へ突き立つ。
弾け飛ぶのは──金の鎖。
「しまっ……た──」
その瞬間、世界が白に染まった。
《ジャスティス・エクスプロージョン》
それは、すべてを終わらせる正義の暴走。
“創造主”にして“勇者”たる彼が放つ、世界改変の終末魔法だった。
咆哮が、
衝動が、
祈りが、──光に消えた。
静寂が訪れる。
しかし──
それは終わりではなく、始まりだった。
異世界へと飛ばされる、黒き番犬。
その魂に宿るものは、まだ滲むような苦い記憶と、焼け残る再生への想い。
これは、全知全能の存在に──
“努力”と”研鑽”で挑もうとする、三姉妹の物語。
そして彼女たちは、まだ知らない。
この世界が、数多の想いで交錯し、
いつか誰かの選択によって、また塗り変わろうとしていることを。
──『ケルベロス三姉妹』
第1章、開幕。