ここは魔王と勇者が相まみえる、ラストダンジョンの最深部。
マグマが吹き出し、燃え盛る熱気が、勇者たちの体力を容赦なく削っていく。
「ガハハハハッ! よくぞここまで辿り着いたな、勇者どもよ!」
「はぁ、はぁ……っ。ま、魔王! 俺たちはお前を倒し……世界を、平和にする……覚悟だ‼」
「ふははははッ! 威勢だけは一人前よ。だが倒れるのはこの我ではない、うぬらの方ぞ!」
——話は、勇者襲来の三年前に遡る。
「魔王様、魔王セイドー様!」
「……んんー。なんだ、ゲドーよ。朝っぱらから騒々しい」
「(いや、もう昼前だっつーの)も、申し訳ございません。ですが、取り急ぎお伝え願いたいことがございます」
「それ、今じゃなきゃダメ? まだ眠いんだけど」
「さては魔王様、また昨晩も遅くまで元老院様とオセロに興じておられたのではないですか?」
「(んぐぁ、バレとる……)お、お主が異世界からあんな(楽しい)ものを召喚したのが悪いのじゃろうが!」
「えぇ~、わたくしのせいですか……」
徹夜で遊んでたのは否定しないんだな、と心の中でツッコミを入れる。
ちなみに、オセロは前々回のマジックアイテム召喚の儀で唯一召喚できたもの。はっきり言って失敗作だった。
まぁ、魔王様が気に入ってるならまぁいいか、とため息を一つ吐くゲドーだった。
「はぁ~。いやいや、そんなことはさておき魔王様! 大変な朗報がございます! 昨晩のマジックアイテム召喚の儀におき
まして、過去類を見ないほどの大成功とも言える結果を収めることができましたのですよ!」
「なにっ⁉ それを早く言わんか!」
「も、申し訳ございません(いや、眠いからとか言ってたのは、どこのどいつだよ……)」
「して、今回はいかようなマジックアイテムが召喚できたと言うのじゃ」
「今回召喚されたものは……なんと! 異世界の住居を一棟丸ごと召喚することに成功致しました!」
「まっ、丸ごとじゃとぉー⁉ とすると……もしやその住居には、人族も付帯しておったりするのか?」
「流石は魔王様。お察しの通りでございます」
「でかしたぞ、ゲドーよ!」
「ありがたきお言葉」
「これで異世界の叡智(主に我の娯楽用~♪)を新たに享受できるということか……素晴らしい!」
「この度召喚された人族は、カイ・ニシミヤ(59歳)、ミホ・ニシミヤ(58歳)、タケ・ニシミヤ(28歳)、スズ・ニシミヤ(23歳)、以上の4名でございます。」
「なるほど。して、彼らに我々のことは説明しておるのか」
「はい。召喚後、すぐに宴会の席を設け、ご歓待させて頂きました。そこで、衣食住や、身の安全の保障をお約束する旨をお伝え済でございます」
「それで、彼らは何と」
「はい、命があるだけで十分、と。やはり初めは戸惑っておられましたが、我々に敵意が無いことをご理解頂けたようで、宴の終わり頃には笑顔も見受けられるようになってございました」
「そうか、それは良い」
「我々の世界をより良くする為、ご協力願いたいとお伝えすると、何が出来るか分からないですが、出来る限りのことはさせて頂きますと、前向きなお返事を承っております」
「異世界の文明・文化は我々の知識を凌駕しておることは言うまでもない。彼らのそれを、わが領土であるアーシア国に取り入れられることが出来れば、領民たちにもっと豊かな生活を送らせることも容易になるかもしれん。これは千載一遇の機会である。早速だが、我も彼らと直接話がしたい。可能か?」
「はっ、すぐにご準備を進めさせて頂きます。彼らも魔王様とのご謁見、光栄極まりないことかと存じますぞ」
思わぬ事態に、寝ぼけまなこだったセイドーは、慌てて洗面所へと向かい、身なりを整え始めるのだった。