ギルド本部・第一受付カウンター。
朝の開館と同時に、冒険者たちがざわめきとともに押し寄せる。
今日も今日とて、仕事を求めて、揉めごとを起こして、恋の噂話に花を咲かせる愉快な連中が集まっていた。
そんな中、エリシアはいつものように凛として、美しい笑顔をたたえていた。
「はい、おはようございます。報酬の受け取りは三番窓口、依頼申請はそちらの書類に記入をどうぞ」
彼女の声には魔力が宿っているのではと噂されるほどに、人を惹きつける魅力がある。
そしてその裏で、目を光らせていた。
――本日は異常なし。平和です。
◆
一方その頃、ギルド内の休憩室。
「なぁ……主任って、本当に受付嬢なんだよな……?」
ライオが、椅子にだらしなく座りながらぼやく。
「言い方。間違ってないけど、なんか違うっていうか。あの人、受付で世界救ってるもん……」
ティナがココアをすする。
その横で、リゼルは真剣な顔でギルド規約集を読み込んでいた。
「俺たちも、もう少し受付の仕事、手伝ってみた方がいいのかもしれない……。主任みたいになりたいし」
「リゼル君は男の子でしょ?」
「男の受付嬢だっているだろ。嬢ではないけど、俺もあんなカッコよく、ビシバシやりてぇーじゃん!」
「それは違うと思う。あれは“主任だからできる”の。俺らがやったら、依頼人が逃げる」
「なんでだよ!?」
「納得ー」
◆
そのとき、休憩室の扉が開く。
「皆さん、午後から新人研修会のお手伝い、お願いできますか?」
――エリシアだ。
「あっ……う、うん、わかりました主任!」
ティナが飛び起き、リゼルも慌てて規約集を閉じた。
ライオは少しだけ目を細めてから、ふっと笑う。
「主任さ、たまには俺らの方から手伝わせてよ。恩、返させてくれ」
エリシアは微笑んだ。
「では、受付業務補佐から始めましょうか。……伝票の照合、過去五年分、よろしくお願いします」
「「「それはちょっと違う!!!!」」」
休憩室に響く叫び声。
それを背に、エリシアはくすくすと笑いながら、受付嬢としての“最前線”へ戻っていく。
◆
その日、ギルドの一日は、いつも通り賑やかだった。
でも、誰もが少しだけ――
世界を救ったあの戦いを、思い出していた。
受付嬢が、今日も笑っている。
それだけで、なんだか頑張れる気がする。
そんな、特別な日常。
――そしてギルドは、また新しい物語の入口へと続いていく。