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後日談 ギルドは今日も賑やかです

 ギルド本部・第一受付カウンター。


 朝の開館と同時に、冒険者たちがざわめきとともに押し寄せる。

 今日も今日とて、仕事を求めて、揉めごとを起こして、恋の噂話に花を咲かせる愉快な連中が集まっていた。


 そんな中、エリシアはいつものように凛として、美しい笑顔をたたえていた。


「はい、おはようございます。報酬の受け取りは三番窓口、依頼申請はそちらの書類に記入をどうぞ」


 彼女の声には魔力が宿っているのではと噂されるほどに、人を惹きつける魅力がある。

 そしてその裏で、目を光らせていた。


 ――本日は異常なし。平和です。





 一方その頃、ギルド内の休憩室。


「なぁ……主任って、本当に受付嬢なんだよな……?」


 ライオが、椅子にだらしなく座りながらぼやく。


「言い方。間違ってないけど、なんか違うっていうか。あの人、受付で世界救ってるもん……」


 ティナがココアをすする。

 その横で、リゼルは真剣な顔でギルド規約集を読み込んでいた。


「俺たちも、もう少し受付の仕事、手伝ってみた方がいいのかもしれない……。主任みたいになりたいし」


「リゼル君は男の子でしょ?」


「男の受付嬢だっているだろ。嬢ではないけど、俺もあんなカッコよく、ビシバシやりてぇーじゃん!」


「それは違うと思う。あれは“主任だからできる”の。俺らがやったら、依頼人が逃げる」


「なんでだよ!?」


「納得ー」





 そのとき、休憩室の扉が開く。


「皆さん、午後から新人研修会のお手伝い、お願いできますか?」


 ――エリシアだ。


「あっ……う、うん、わかりました主任!」


 ティナが飛び起き、リゼルも慌てて規約集を閉じた。


 ライオは少しだけ目を細めてから、ふっと笑う。


「主任さ、たまには俺らの方から手伝わせてよ。恩、返させてくれ」


 エリシアは微笑んだ。


「では、受付業務補佐から始めましょうか。……伝票の照合、過去五年分、よろしくお願いします」


「「「それはちょっと違う!!!!」」」


 休憩室に響く叫び声。

 それを背に、エリシアはくすくすと笑いながら、受付嬢としての“最前線”へ戻っていく。





 その日、ギルドの一日は、いつも通り賑やかだった。


 でも、誰もが少しだけ――

 世界を救ったあの戦いを、思い出していた。


 受付嬢が、今日も笑っている。

 それだけで、なんだか頑張れる気がする。

 そんな、特別な日常。


 ――そしてギルドは、また新しい物語の入口へと続いていく。

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