「あのー……正確には、御手洗さんが住んでるマンションだかアパートにしてもらいたいんですけど……」
そう遠慮がちにというか、伏し目がちにというか。まるで気持ち的に僕を見上げるように言ってくる北山。
そこで、またしても僕の心臓はドキリと跳ね、鼓動が早くなる。
むしろ今日は、心臓がいくつあっても足りない気がしてくる。
本当に、今日の僕というのは北山に“キュン死”させられそうな気分なのだ。
笑顔だけでも天国へ連れていかれそうになったのだから、もはや良い意味で“北山に殺されかけている”のかもしれない。
しかし、もうすでに僕のペースではなかった。
確実に、北山のペースに巻き込まれてしまっている。
それでも、どうにか僕は持ちこたえて、
「ぼ、僕と同じマンションですか?」
と答えるものの、言葉は見事に噛んでしまっていた。
本当に今日はキツい。
むしろ、完全に動揺しているのがバレバレの状態かもしれない。
それでも気持ちを立て直すようにパソコン画面へ視線を向け、どうにか仕事に集中しようとする僕。
そんな時、ふと頭の中に浮かんだのは――
『僕のマンションの隣の部屋が空いている』という情報だった。
それが天使の囁きなのか悪魔の囁きなのかはわからない。
けれど、その浮かんできた言葉を、そのまま北山に伝える。
「僕が住んでいるマンションの隣が空いてますが、そこで、よろしいのでしょうか?」
そう答えると、北山は少し照れたような表情で、こんなことを言った。
「だって、不動産屋さんが住んでるところって、やっぱり一番、条件とか整っていそうじゃないですか? コンビニも近そうだし、駅近とかスーパーとかってありそうだし……
それに、御手洗さんって、独身そうに見えるので、そういう“自分に合った条件”のところに住んでそうですし……」
一瞬、北山の表情がにやりと笑ったように見えた気がした。
――だけど、その言葉の内容の方が、僕にとっては強烈だった。
……まさかの完全な勘違い。
思いっきり舞い上がっていた自分に気づいた瞬間、僕の頭の中は真っ白になってしまった。
だが、それでも、言いたいことが一つだけある。
――今までの僕の胸の高鳴り、返してくれ。