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第4話

「あのー……正確には、御手洗さんが住んでるマンションだかアパートにしてもらいたいんですけど……」


 そう遠慮がちにというか、伏し目がちにというか。まるで気持ち的に僕を見上げるように言ってくる北山。

 そこで、またしても僕の心臓はドキリと跳ね、鼓動が早くなる。


 むしろ今日は、心臓がいくつあっても足りない気がしてくる。

 本当に、今日の僕というのは北山に“キュン死”させられそうな気分なのだ。

 笑顔だけでも天国へ連れていかれそうになったのだから、もはや良い意味で“北山に殺されかけている”のかもしれない。


 しかし、もうすでに僕のペースではなかった。

 確実に、北山のペースに巻き込まれてしまっている。


 それでも、どうにか僕は持ちこたえて、


「ぼ、僕と同じマンションですか?」


 と答えるものの、言葉は見事に噛んでしまっていた。


 本当に今日はキツい。

 むしろ、完全に動揺しているのがバレバレの状態かもしれない。


 それでも気持ちを立て直すようにパソコン画面へ視線を向け、どうにか仕事に集中しようとする僕。

 そんな時、ふと頭の中に浮かんだのは――


 『僕のマンションの隣の部屋が空いている』という情報だった。


 それが天使の囁きなのか悪魔の囁きなのかはわからない。

 けれど、その浮かんできた言葉を、そのまま北山に伝える。


「僕が住んでいるマンションの隣が空いてますが、そこで、よろしいのでしょうか?」


 そう答えると、北山は少し照れたような表情で、こんなことを言った。


「だって、不動産屋さんが住んでるところって、やっぱり一番、条件とか整っていそうじゃないですか? コンビニも近そうだし、駅近とかスーパーとかってありそうだし……

 それに、御手洗さんって、独身そうに見えるので、そういう“自分に合った条件”のところに住んでそうですし……」


 一瞬、北山の表情がにやりと笑ったように見えた気がした。


 ――だけど、その言葉の内容の方が、僕にとっては強烈だった。


 ……まさかの完全な勘違い。


 思いっきり舞い上がっていた自分に気づいた瞬間、僕の頭の中は真っ白になってしまった。


 だが、それでも、言いたいことが一つだけある。


 ――今までの僕の胸の高鳴り、返してくれ。


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