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第3話

 とりあえず、いつもの営業スマイルというか、どうにか自然な笑顔で北山の方を見つめると、再度確認のために条件を聞いてみることにした。


「条件の方は、どういたしましょうか?」


 すると、北山はまた、あの極上の笑顔でこう言った。


「だから、御手洗さんが決めたところでいいですよ」


 その言葉に、僕は本当に天国へ来てしまったかのように感じた。

 高鳴ってしまっている鼓動を必死に抑えながら、今は仕事中なのだと自分に言い聞かせる。天国に行きかけていた魂を現世へ引き戻すように、もう一度、小さく深呼吸をした。


 しかし、本当に今日の僕の鼓動はまったく落ち着かない。

 今にも過呼吸で倒れてしまいそうなのだが、それを何度も何度も抑える僕。


 ……よくよく考えてみると、本当に北山は、僕が選んだ物件でいいのだろうか。

 だとしたら、僕の家の近くでもいいってこと? まさか、北山も僕のことを意識している……? だからこそ、僕の家の近くに住みたいと思っているのだろうか。


 ――いやいや、落ち着け、俺。

 もしかしたら、完全に勘違いしているのかもしれない。


 とにかく、自分を落ち着かせて、冷静を装い、いつものように接客を始める。


「じゃあ、駅近とか、コンビニが近いとか……あ、学生さんでしたら、学校に近い方がいいと思うので、やっぱり駅近の方がいいですかね? それと、家賃が安くて見た目もいいところがいいと思うんですが……」


 そう言いながら、僕はパソコンに視線を移し、検索を始める。


「とりあえず、いくつか出ましたけど……どうですか?」


 そう言って、僕は検索結果の出たパソコン画面を北山の方へ向ける。


 一瞬、北山はその画面を見たのだけど、すぐに険しい表情になって、


「違うかな?」


 と、ぽつりと漏らした。


 僕は心の中で、『僕が選んだ場所でいいって言ったじゃないですか!?』と突っ込みながらも、そこは仕方ない。北山がそう言っているのだから。そう自分に言い聞かせる。


 だけど、次の北山の言葉に、思わず動揺してしまった。


 本当に――それってどういう意味なんだろうか。

 疑問に思わずにはいられない、そんな一言だったのだから。


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