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第2話

 でも、ここで焦ってはいけない。

 話をしていくうちに、「男性好きなのかな?」とか、反応を見ながらそれを探っていきたいと思っている。


 とりあえず、北山様には椅子に座ってもらう。

 ここは一応、不動産屋なのだから、新しい家を探しに来ているわけで、まずはそちらが優先だよね。そう自分に言い聞かせて、僕は仕事モードに切り替える。


 僕も北山様と向かい合わせで椅子に座り、パソコンの画面と、そして北山様の顔とを交互に見つめる。


「今回、僕が北山様の担当をさせていただきます、御手洗(みたらい)と言います。これから、よろしくお願いしますね……」


 と、僕はこれまでにない笑顔――いや、スーパースマイルで、北山様に視線を向けた。


 僕の中での“スーパースマイル”とは、通常の笑顔を超えた最大級の表情で、自分が「好みだなあ〜」と思ったお客様にだけ発動される、特別な笑顔のことだ。


 すると、北山様はその僕の笑顔を見た瞬間、顔を真っ赤にして俯いてしまった。


 ……なるほどね。

 北山様は、そういう気があるってことか……。


 その反応に、僕は内心でニヤリと満足する。


「とりあえず、どんな条件がお望みですか? 家賃の予算、ペットの有無、マンションかアパートか……その他、何か希望があれば探させていただきますよ」


 そう言って、僕はパソコンの画面に視線を戻す。

 あとは北山様が条件を言ってくれれば、それに合わせて物件を検索するだけだ。


 だけど、北山様はまだ顔を俯けたままだった。


 そんな姿さえも、僕から見れば「可愛い〜!」としか思えなかった。

 でも、焦りは禁物。……まぁ、僕からしてみたら、もうほぼ確信しているんだけどね。だって、普通の男だったら、スーパースマイルを向けられて顔を赤くしたりはしないだろ?


 僕は、しばらく北山様が落ち着くのを待つことにした。

 むしろ今日は、僕には時間の余裕がある。だったら、待ってあげるのも優しさだろう。


 そして――やっと、北山様が口を開いた。


「条件は、御手洗さんが決めたところでいいですよ……」


 僕はその言葉に、思わず首を傾げてしまった。


「どういうことでしょうか?」


 そう問いかけると、北山様は急に顔を上げて笑顔になった。

 それが、まるで“北山様の最上級の笑顔”かと思うほどで、僕に向かって言ってくる。


 ……ってか、本気で僕のほうが、その笑顔にやられそうになったくらいだ。


 ……だけど、まだ仕事中なのだから、平常心、平常心……。


 そう自分に言い聞かせて、今にも爆発しそうな心臓を深呼吸で落ち着かせる。

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