でも、ここで焦ってはいけない。
話をしていくうちに、「男性好きなのかな?」とか、反応を見ながらそれを探っていきたいと思っている。
とりあえず、北山様には椅子に座ってもらう。
ここは一応、不動産屋なのだから、新しい家を探しに来ているわけで、まずはそちらが優先だよね。そう自分に言い聞かせて、僕は仕事モードに切り替える。
僕も北山様と向かい合わせで椅子に座り、パソコンの画面と、そして北山様の顔とを交互に見つめる。
「今回、僕が北山様の担当をさせていただきます、御手洗(みたらい)と言います。これから、よろしくお願いしますね……」
と、僕はこれまでにない笑顔――いや、スーパースマイルで、北山様に視線を向けた。
僕の中での“スーパースマイル”とは、通常の笑顔を超えた最大級の表情で、自分が「好みだなあ〜」と思ったお客様にだけ発動される、特別な笑顔のことだ。
すると、北山様はその僕の笑顔を見た瞬間、顔を真っ赤にして俯いてしまった。
……なるほどね。
北山様は、そういう気があるってことか……。
その反応に、僕は内心でニヤリと満足する。
「とりあえず、どんな条件がお望みですか? 家賃の予算、ペットの有無、マンションかアパートか……その他、何か希望があれば探させていただきますよ」
そう言って、僕はパソコンの画面に視線を戻す。
あとは北山様が条件を言ってくれれば、それに合わせて物件を検索するだけだ。
だけど、北山様はまだ顔を俯けたままだった。
そんな姿さえも、僕から見れば「可愛い〜!」としか思えなかった。
でも、焦りは禁物。……まぁ、僕からしてみたら、もうほぼ確信しているんだけどね。だって、普通の男だったら、スーパースマイルを向けられて顔を赤くしたりはしないだろ?
僕は、しばらく北山様が落ち着くのを待つことにした。
むしろ今日は、僕には時間の余裕がある。だったら、待ってあげるのも優しさだろう。
そして――やっと、北山様が口を開いた。
「条件は、御手洗さんが決めたところでいいですよ……」
僕はその言葉に、思わず首を傾げてしまった。
「どういうことでしょうか?」
そう問いかけると、北山様は急に顔を上げて笑顔になった。
それが、まるで“北山様の最上級の笑顔”かと思うほどで、僕に向かって言ってくる。
……ってか、本気で僕のほうが、その笑顔にやられそうになったくらいだ。
……だけど、まだ仕事中なのだから、平常心、平常心……。
そう自分に言い聞かせて、今にも爆発しそうな心臓を深呼吸で落ち着かせる。