しかし、マジで――その見上げ方は僕からしてみたら反則だ。
本当に今すぐにでも、この場で北山のことを抱きしめたい気分になってくる。だけど、ここはまだマンション内のゴミ捨て場。いつ誰が来るか分からない場所なのだから、さすがの僕でも、そんなことはできない。
一応、世間の目というものは気にしている方なのだ。
いまだに同性同士のカップルを認めてくれる人もいるにはいるけれど、やっぱり認めてくれない人のほうが多いのが現実だ。だからこそ、まだまだ正々堂々とはいかない。
……だが次の瞬間、僕のそんな考えをよそに、北山が思いきり抱きついてきた。
僕と北山とでは若干身長差がある。どうやら北山にとって、僕の腰あたりはちょうど抱きつくのに良い高さだったらしい。
「本当に、僕は御手洗さんのことが好きなんです! 御手洗さんも僕のことが好きなら、付き合ってください!」
――そう。まさかの告白だった。
一瞬、どうすればいいのか分からなくなったけれど、僕の想いは一方通行ではなかったんだ、ということに気づいた。
それに、ホッとした自分がいた。
今、北山は『付き合ってください』と言った。つまり、それは“ライク”ではなく、“ラブ”の方だってことだ。
安心したのはいいけれど、ここはゴミ捨て場だし、僕はこれから仕事なのだ。
「あ、うん……分かった。とりあえず、分かったからさ。その……あの……ここ、まだゴミ捨て場だし、僕、これから仕事なんだけど。ごめん、遅刻しちゃうし……」
本当に申し訳ない気持ちで、僕は北山にそう伝える。
だけど、正直なところ、今すぐにでも仕事なんて投げ出して北山と一緒にいたいくらいの気分だった。それでも、社会人としてプライベートと仕事は切り分けるべきだ。だからこそ、北山にはしっかり断りを入れる。
「では、分かりました! 御手洗さんが帰ってくるまで、僕、待ってますね……」
「そうしてくれると助かるかな」
そうして、朝のやりとりはそこで終了した。北山は素直に僕から離れてくれた。
そして、そこでもまた、僕はホッとしてしまっていた。
とりあえず気持ちを切り替えて、僕はいつものように出勤する。
……だが。
今日の僕は、職場に着いてもどうにも気合いが入らなかった。頭の中では、ずっと北山のことがぐるぐる回っていたのだから。
たしかに僕は男だ。だから、告白の場所なんてあまり気にしないつもりではいるけれど……それにしたって、ゴミ捨て場っていうのはさすがにどうなんだろう。
せめてもう少し、普通の場所で……と思わないでもない。
でも、北山と会える時間が限られている以上、今日のあの瞬間しかなかったのだから、仕方がないのかもしれない。
今後、ちゃんとした雰囲気の中で改めて告白し直すべきなのだろうか? いや、男同士なのだから、場所や雰囲気なんて、案外気にしすぎなくてもいいのかもしれない。
だって実際、北山だって、何も飾らずに僕に告白してきてくれたのだから――。