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第7話

 しかし、お店で案内した人が隣に住んでいるというのは、なんだか不思議な感じだ。


 しかも北山さんは、来月から社会人になると言っていた。だから、あと1週間くらいは、このマンションでゆっくり過ごすことになるのだろう。


 僕はひとり暮らしなので、朝は出勤前にゴミ出しをする。すると、ちょうど同じ時間に北山さんも出てきて、挨拶を交わすことになる。


「おはようございます」


 北山さんの、下から見上げるようなとびきりの笑顔にやられながらも、僕の方は、まだ「お客様」という感覚が抜けきらないのか──


「おはようございます」


 と、つい丁寧にお辞儀までしてしまう始末だ。


 これは僕の性格のせいなのか、それとも北山さんの魅力のせいなのか……正直、どっちなのか分からない。


 それにしても、僕の心臓はいまだに高鳴ったままだ。でも、どうしてだろう。なぜか、いつものように踏み出せない。


 ……北山さんのことは、好きなんだけど。いやいや、もう「お客様」じゃないんだから、呼び方も「北山様」ではなく「北山さん」でいいはずだ。


 そんなふうに自分の中で言い聞かせていると、北山さんが突然、声をかけてきた。


「御手洗さんって、カッコいいですよねー」


 ……へ? え? まぁ、そこはね……自分でも多少はそう思ってないこともないけど……でも、僕はナルシストじゃない。


「へ? あ、まぁ……そうなのかな?」


 とりあえず、表向きにはそう答えておいた。


「僕は、そんな御手洗さんのことが好きですよ……」


 その言葉に、もしお茶でも飲んでいたら間違いなく吹き出していただろうと、内心で思った。


 いつもなら、北山さんに会っても僕は落ち着いていられるのに、その一言で再び心臓がドクンと跳ねた。いや、半分は完全に動揺してるだけなんだけど……。


 ……こういうことって、本当は僕の方から言うべきだったんじゃ?


 とも思うのだけど、まぁ、それはそれでいいのかもしれない。


 だけど、なんというか──今回は、北山さんに押されっぱなしな気がしてならない。ハッキリ言って、僕はタチの方だ。だからこそ、北山さんのような可愛い子はドストライクで、本来なら僕の方からグイグイ行きたいところなのに、今回は完全にペースを握られている。


 北山さんって、実は襲い系とか誘い受けタイプだったりするのだろうか?


 ま、まぁ……それも悪くはない。だって今回は、僕の方がなんだか押され気味なんだから、そういうパターンもアリだろう。


「いきなり、僕にそんなこと言われても……御手洗さんは困るだけですよね……」


 そう言って、急に俯いて切なそうな表情を見せる北山さん。


 ……いやいやいや、そんなことはない!! むしろ、僕の方こそ北山さんに惹かれていたのだから……。


 だから、僕は答える。


「いや……大丈夫です。僕も、北山さんのこと……最初から好みでしたからね」


 その僕の言葉に、北山さんはパッと顔を上げ、目をキラキラさせて、まるで乙女のように僕を見上げてきた。

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