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第10話

 そして僕は奥に通されて、座布団の上に座る。北山も僕の向かいに腰を下ろした。


 彼はまっすぐに僕を見て、


「朝、僕が言ったことは本当なんですからね」


 と、いきなり本題に入ってきた。


 ……北山って、やっぱり行動が早い気がするのは気のせいだろうか。


「うん、僕の方も、それはちゃんと分かってるから。大丈夫だよ」


 僕もそれに合わせるように返事をした。


「じゃあ、御手洗さんは“男同士で付き合う”ってことに抵抗がないってことで、いいんですね?」


「もちろん。むしろ僕は、女性には興味ないし」


 そう、淡々と答える。というか、もう先に告白されてしまっているんだから、ぶっちゃけ話も抵抗ないのだ。


「ふふ……それなら、よかったです」


 北山はどこか嬉しそうに微笑んで、テーブルに両肘をついて僕をじっと見つめてくる。


 本当にこのままじゃ、主導権を完全に握られてしまいそうだ。


 いつもの僕なら、付き合ったら即ガツガツ行けるタイプのはずなのに。なのに今回は、完全に北山にリードされてしまっている。


 なんだろう……北山には、何か不思議な雰囲気がある。まるで、目に見えない壁や盾みたいなものがあって、僕の方からはうまく踏み込めないような、そんな感覚。


 年上なのも、体格的に自分の方が大きいのも事実なのに、それでも全然リードできていない。


 そんなことを考えていたら、気づけば北山が僕の目の前に来ていて、突然、上半身を仰向けにさせられていた。


 そして、唇にじんわりと温かい感触が落ちる。


 ……これって、まさかキス?


 僕はまだ状況が飲み込めない。これって、もしかして――北山に押し倒された? え、僕って今、襲われてるの?


「御手洗さんって、男性経験あるんですか?」


「え? あ、まぁ……一応は……」


 まだ頭が混乱しているけれど、その問いにはとりあえず淡々と答えた。今まで僕は基本タチだったから、特に恥ずかしさもない。


「じゃあ、どっちだったんですか?」


「僕は……タチの方だけど」


「実は僕も、タチなんですよねぇ」


 ――その言葉に、僕の脳内は真っ白になる。


 最初に北山を見たときから、僕は「この人、絶対に受けだろう」と勝手に思っていた。でも実際は、彼もタチだった。


 そう考えると、今までの北山の発言や行動の謎が一気に解けた気がする。そして僕がうまくリードできなかった理由も、なんとなく納得できる。


 僕は黙って北山を見つめた。


 完全にパニックだ。


 ……人間って、思い通りにいかないと、ほんと訳がわからなくなるもんだ。


 でも、確かにこの状況はそういうことなんだろう。僕は今、北山に押し倒されてる。つまり……。


「……ってことは? この状況から察するに、僕が北山さんと付き合うってことは……僕が“下”ってこと、ですか?」


「はい! もちろんですよ! もしかして、僕の見た目に騙されちゃいました?」


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