そして僕は奥に通されて、座布団の上に座る。北山も僕の向かいに腰を下ろした。
彼はまっすぐに僕を見て、
「朝、僕が言ったことは本当なんですからね」
と、いきなり本題に入ってきた。
……北山って、やっぱり行動が早い気がするのは気のせいだろうか。
「うん、僕の方も、それはちゃんと分かってるから。大丈夫だよ」
僕もそれに合わせるように返事をした。
「じゃあ、御手洗さんは“男同士で付き合う”ってことに抵抗がないってことで、いいんですね?」
「もちろん。むしろ僕は、女性には興味ないし」
そう、淡々と答える。というか、もう先に告白されてしまっているんだから、ぶっちゃけ話も抵抗ないのだ。
「ふふ……それなら、よかったです」
北山はどこか嬉しそうに微笑んで、テーブルに両肘をついて僕をじっと見つめてくる。
本当にこのままじゃ、主導権を完全に握られてしまいそうだ。
いつもの僕なら、付き合ったら即ガツガツ行けるタイプのはずなのに。なのに今回は、完全に北山にリードされてしまっている。
なんだろう……北山には、何か不思議な雰囲気がある。まるで、目に見えない壁や盾みたいなものがあって、僕の方からはうまく踏み込めないような、そんな感覚。
年上なのも、体格的に自分の方が大きいのも事実なのに、それでも全然リードできていない。
そんなことを考えていたら、気づけば北山が僕の目の前に来ていて、突然、上半身を仰向けにさせられていた。
そして、唇にじんわりと温かい感触が落ちる。
……これって、まさかキス?
僕はまだ状況が飲み込めない。これって、もしかして――北山に押し倒された? え、僕って今、襲われてるの?
「御手洗さんって、男性経験あるんですか?」
「え? あ、まぁ……一応は……」
まだ頭が混乱しているけれど、その問いにはとりあえず淡々と答えた。今まで僕は基本タチだったから、特に恥ずかしさもない。
「じゃあ、どっちだったんですか?」
「僕は……タチの方だけど」
「実は僕も、タチなんですよねぇ」
――その言葉に、僕の脳内は真っ白になる。
最初に北山を見たときから、僕は「この人、絶対に受けだろう」と勝手に思っていた。でも実際は、彼もタチだった。
そう考えると、今までの北山の発言や行動の謎が一気に解けた気がする。そして僕がうまくリードできなかった理由も、なんとなく納得できる。
僕は黙って北山を見つめた。
完全にパニックだ。
……人間って、思い通りにいかないと、ほんと訳がわからなくなるもんだ。
でも、確かにこの状況はそういうことなんだろう。僕は今、北山に押し倒されてる。つまり……。
「……ってことは? この状況から察するに、僕が北山さんと付き合うってことは……僕が“下”ってこと、ですか?」
「はい! もちろんですよ! もしかして、僕の見た目に騙されちゃいました?」