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第11話

 お風呂のあとは、何度もキスをして、本当に恋人らしい時間を過ごしていた僕たち。


 体を重ねているときの北山はSっ気たっぷりだったけれど、こういう何気ない時間の北山は案外優しくて、まるで飴と鞭を上手く使い分けているようだった。


 でも僕としては、どんな立ち位置でいればいいのか、少し戸惑うこともある。いつものように“タチ”のポジションじゃなくなったわけだし。確かに、惺(せい)は普段の生活ではどこか“ネコ”っぽい雰囲気があるけれど、いざそういう関係になると表情が変わって、“オス”になるというか……とにかく、ギャップが激しい。だけど、それも含めて惺のことが好きなんだから、そういうところもちゃんと受け入れていこう、って思う。


 それからは、僕が仕事から帰宅すると、隣に住んでいる惺の家へ向かうのが日課になった。

 すると、もう料理が用意されていて、それを一緒に食べる――それが、僕たちの日常になっていた。


 もちろん、恋人同士だからこそ――


「海(かい)……あーん、して?」


 なんて言われて、ごはんの食べさせ合いっこをしたりもする。


 ちなみに、僕の名前は御手洗 海(みたらい かい)。

 恋人になった僕たちは、お互いを名前で呼び合っている。


 僕は、惺が作ってくれた肉料理を箸でつまんで、彼の口元へと運ぶ。

 そして惺も、同じように僕の口元へと料理を差し出してくれる。


 両想いだからこそ、こんなふうにイチャイチャできる。

 ――そんな日常さえも、今の僕たちには幸せに感じられる。


 夜も一緒に眠って、僕は最初の約束どおり“ネコ”になった。

 だけど、やっぱりまだ違和感はある。今まで僕がしていたことを、される側になってるんだから。


 それにしても、惺みたいなタイプは本当に“見た目に騙されるな”ってことがよくわかった。

 かなりのS気質というか、言葉責めも得意で、可愛い顔しているのに、抱いてくるときにはすっかり“攻め顔”。かっこよくなるというか、迫力があるというか……。

 僕が惺との会話で言葉に勝てなかったように、ベッドの上でもまったく敵わない。完全に惺に主導権を握られている。


 でも、今こうして惺と恋人同士になれて、幸せになれたのだから――それでいい。

 今はただ、それだけで、毎日がハッピーでいられている。


 そして朝になると、僕は一度自分の家に戻る。仕事の準備をしなくちゃいけないからだ。


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