お風呂のあとは、何度もキスをして、本当に恋人らしい時間を過ごしていた僕たち。
体を重ねているときの北山はSっ気たっぷりだったけれど、こういう何気ない時間の北山は案外優しくて、まるで飴と鞭を上手く使い分けているようだった。
でも僕としては、どんな立ち位置でいればいいのか、少し戸惑うこともある。いつものように“タチ”のポジションじゃなくなったわけだし。確かに、惺(せい)は普段の生活ではどこか“ネコ”っぽい雰囲気があるけれど、いざそういう関係になると表情が変わって、“オス”になるというか……とにかく、ギャップが激しい。だけど、それも含めて惺のことが好きなんだから、そういうところもちゃんと受け入れていこう、って思う。
それからは、僕が仕事から帰宅すると、隣に住んでいる惺の家へ向かうのが日課になった。
すると、もう料理が用意されていて、それを一緒に食べる――それが、僕たちの日常になっていた。
もちろん、恋人同士だからこそ――
「海(かい)……あーん、して?」
なんて言われて、ごはんの食べさせ合いっこをしたりもする。
ちなみに、僕の名前は御手洗 海(みたらい かい)。
恋人になった僕たちは、お互いを名前で呼び合っている。
僕は、惺が作ってくれた肉料理を箸でつまんで、彼の口元へと運ぶ。
そして惺も、同じように僕の口元へと料理を差し出してくれる。
両想いだからこそ、こんなふうにイチャイチャできる。
――そんな日常さえも、今の僕たちには幸せに感じられる。
夜も一緒に眠って、僕は最初の約束どおり“ネコ”になった。
だけど、やっぱりまだ違和感はある。今まで僕がしていたことを、される側になってるんだから。
それにしても、惺みたいなタイプは本当に“見た目に騙されるな”ってことがよくわかった。
かなりのS気質というか、言葉責めも得意で、可愛い顔しているのに、抱いてくるときにはすっかり“攻め顔”。かっこよくなるというか、迫力があるというか……。
僕が惺との会話で言葉に勝てなかったように、ベッドの上でもまったく敵わない。完全に惺に主導権を握られている。
でも、今こうして惺と恋人同士になれて、幸せになれたのだから――それでいい。
今はただ、それだけで、毎日がハッピーでいられている。
そして朝になると、僕は一度自分の家に戻る。仕事の準備をしなくちゃいけないからだ。