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第123話 継承者

「兄が中学校に入学する前に、大きな変化が二つあった」と蓮。「一つは祖父母の隠居で、もう一つは両親の離婚。」


「大変だったんですね」と弘美。


「そうね。でも自業自得だわ。私たち」と蘭。二人はふふふと笑った。


「ここからは良い話なの?」と絵里。


「兄を殺そうとする話は終わったわ。あとは私たちが報いを受ける話よ」と蓮。


「ある週末に私たちは祖父母に道場に集められた」と蘭。「そこで祖父母は隠居すると宣言した。だから次の道場主を決めると言った。朱良はすでに先代の修羅から引継ぎをしていたから道場主にはなれない。シュラは道場での役職でもあるから。」


「本来なら、道場主と一緒にシュラも隠居して、次の代に譲るのことになっている。でも先代の修羅は兄の身代わりで死んでしまったから、時期がずれてしまった」と蓮。


「身代わりって……」と絵里。「亡くなったのは偶然じゃないの。」


「まさか。もちろん身代わりよ。先代の修羅がそういって死んだから。他に説明がつかないわ。私たちは兄を殺すつもりが、修羅を殺してしまった」と蘭。「そしてさんざん兄を大事にしろと生前言っていた。修羅には兄の才能が見えていたのだと思う。」


「私たちは当然、兄が当主になると思っていた。力量が飛びぬけている。ただ、毒のせいで今は体が動かない。でもそのうち回復するだろうと思っていた。それに朱良姉がいれば誰にも負けることはない」と蓮。


「朱良姉が、先代からの申し送りで兄が当主にふさわしい、と言ったの」と蘭。「でも兄は断った。こんな感じだったわ。


『次の当主は弘樹がふさわしいと、先代から強く申し送りを受けております。私も同意見です』と朱良。


『そうじゃな。どうじゃ、弘樹、引き受けてくれるか?』と正一。


『ぼくはやらないよ』と弘樹。


『なぜじゃ』と正一。


『体が動かないよ。病人だし、いつ死ぬかわからないよ』と弘樹。


『そうじゃったな』と正一。


『いいえ、弘樹の体はすでに回復しています。昨日も風呂で確認しました。以前より筋肉が付いています』と朱良。


『でも体が重いんだ。武術なんて無理だよ。まして当主なんて』と弘樹。


『当主の仕事は私が付いているから大丈夫よ』と朱良。


『ぼくは武道なんてつづけないよ。もともと武道家じゃないから』と弘樹。


『いいえ、あなたは武道家よ』と朱良。


『ぼくはもうじき道場を出ていくから』と弘樹。


『どこに行くのよ?』と朱良。


『どこかへ行くよ。そうだ、お母さんの所へ行ってピアノを弾くんだ』と弘樹。


『母さんは今病院にいるわ。知ってるでしょ』と朱良。


『それじゃあ、泰子ちゃんか鈴ちゃんと結婚するよ。約束しているんだ。どこかにお家を建てて、一緒に暮らそうって』と弘樹。


『だめよ!許さないわ、そんなこと!』と朱良。


『弘樹、道場と結婚は関係ない。好きな相手と結婚したらええ』と妙。


『ぼくは武術が嫌いなんだ。何でぼくが他の人と叩きあわないといけないんだよ』と弘樹。


『そうじゃな。困ったのう』と正一。


『ぼくでなくてもいいでしょう?当主なんて仁美姉さんがすればいいじゃないか。仕切りたがりなんだから』と弘樹。


『順子姉さんと私は当主にはならないという約束でここにいるの。だから無理よ』と仁美。


『じゃあ、蘭か蓮がなればいいじゃないか』と弘樹。


『二人はまだ小学生よ』と朱良。


『ぼくだって一歳しか違わないよ』と弘樹。


『私たちが助けるから、当主になってくれないかしら。ちゃんとお世話するから』と仁美。


『いやだよ』と弘樹。


『私たちがずっとついているから、引き受けてちょうだい。私たち、仲間でしょ』と仁美。


『へ? 仲間?』と弘樹。


『そうよ。一緒に修行した仲間よ』と仁美。


『ぼく、最近気が付いたことがあるんだ。お姉さんたち、本当はぼくのこと嫌いなんでしょ。だから何度も殺そうとしたんでしょ。ぼく、気が付かなかったんだ、みんなに嫌われてるって。ぼく以外の五人が仲間なんでしょ。気が付かなくてごめんなさい。だから、もうじき出ていくことにしたんだ』と弘樹。


 それっきりみんな黙り込んでしまった。兄は学校に通い始めたおかげで、人間関係が理解できるようになったのね。」



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