目を覚ますと砂浜だった。横に目を向けると、見知った顔が『あっ!』と甲声を上げて駆け寄ってくる。
「朝陽(あさひ)くん、目を覚ましたのね! 思ったよりはや……すっごく心配したのよ!」
落ち着いてる声とお淑やかな雰囲気な彼女は九条家の令嬢。九条一歌(いちか)だ。
「確か俺は……君のいとこの結婚式に招待されてお酒を飲んでいた。ここはいったい……?」
「ここ? ここはくじょ……私にも分からないわ! どこかの無人島に流れ着いたみたいなの!」
「無人島……?」
「ええ、朝陽くんが酔い潰れてる間に会場ごと波に攫われちゃって、気が付いたらこの島に居たの」
周りを見渡してみると、なぜか都合よく漂着している新鮮な食材達。一見ボロそうに塗装されているが、地震が起きてもびくともしなさそうな小屋。
察するにこれは……
「他の人たちが見当たらないけど、みんなは無事なのか?」
「ええ、何故だか分からないけど絶対に無事だと思うわ」
「なるほど。それじゃここからどうするか考えようか」
「話が早くて助かるわ、朝陽くん! 二人きりのサバイバルの始まりよ!」
他にやりようがあっただろうと思う。じいさん達の介入があったにしろ無かったにしろ、本当に彼女はこれで騙せたつもりなのだろうか?
しかしせっかくの機会だ。ここは敢えて乗っかって、無人島を目一杯楽しむことにしよう。
◇
俺の名は竹田朝陽。九条一歌とは幼馴染だ。現在、無人島にいる。
無人島と言っても上を見ればドローンが空を飛び回り、海の向こうには何隻か船が見える。さらに一歌のバックを確認したらGPSが入っていた。
「リアリティ無ぇ……」
九条お嬢様の安全を最大限考慮した上で無人島にいる状況である。
今も未開封の飲料ペットボトルが何本も流れ着いている。サバイバルさせる気あるのか問いたい。
話は変わるが、九条家は貴族家系の末裔。竹田家は皇族の末裔である。そして両家のじいさん達は仲良しだ。
おそらく今回は孫同士くっつけちゃおう大作戦でも敢行されてるに違いない。
「帰ったら文句の一つでも言ってやろう」
とは言ったものの、俺としては一歌と付き合えるなら願ってもないお話ではある。
まず性格がいい。令嬢らしくしっかりしている部分もあれば。反面、どことなく抜けた部分もあって、本質は天然であるところも愛らしい。
次に外見がいい。透き通った黒髪ロングヘアーで、気品さがある。そして不意打ちのように子供のような表情をしてくる。
堕ちない男が居たら教えて欲しいぐらい彼女は魅力的である。
ただ、一歌がどう思ってるのかで話は変わってくる。彼女が俺を異性として見てなかった場合、俺たちは男女の付き合いにならず、じいさん達の企みも露に消えるだろう。
はたして一歌は、俺と無人島で二人きりになってどう思ってるのだろうか?
いい加減告白でもして白黒はっきりした方が良いのかもしれない。