食事を済ませて少しした後、一歌が『山へ探索に向かいましょう!』と言い出した。
「……その格好でか?」
俺たちは一歌のいとこの結婚式の流れから無人島に来ている。服は山に着ていくようなものではない。
しかしそこは九条家。何故かたまたま登山用の服と登山用の装備一式が小屋に用意されていた。抜け目が無い。
「ははっ、手慣れてるなぁ」
思わず乾いた笑い声がこぼれた。
「いつになったら終わるんだよこれ……?」
俺の声は誰にも届かず、野生の中に消えていった。
◇
唐突に始まった登山だったが、野生動物どころか虫一匹たりとも出会うことなく山頂まで辿り着いた。
ついでにドローン数台とヘリコプターが追尾してくる。本当にこれで彼女は騙せたつもりなのだろうか?
それよりもっと深刻な事実がある。無人島生活の主導権を九条家に握られてることだ。彼女が満足しなければ一カ月、下手したら一年ここにいることになってしまうだろう。
しゃれにならない。俺の人生が狂ってしまう!
だからなんとしても彼女の目的を知って解決しなければならない。まずは目的を吐かせないと。かくなる上は……
「綺麗な夕焼けだね朝陽くん!」
「一歌お前、なにか俺に言うことがあるんじゃないか?」
それとなくカマをかけてみることにした。
◇
カマをかけた瞬間、一歌は固まってしまった。おそらくこの反応は何か目的があるのだろう。
「どうした? もしかしてじいさん達の道楽に俺たちは巻き込まれたりしてるのか?」
「違う、違うの。そ、それはね」
「落ち着け」
一歌は明らかにテンパっていた。彼女は一二回深呼吸した後、ゆっくり語り始めた。
「実はね……」
「うん」
数秒の沈黙の後、一歌が思い詰めた顔で口を開く。
「無人島に漂流したというのは嘘なの!」
「知ってる」
そんなことを知りたいんじゃない。漂流云々が嘘なのは始めから分かってたけど。俺が知りたいのは彼女の動機である。
そんなことは知らない一歌は、白目を剥いてひどく驚いていた。
「ええっ!? そ、そんな……バカな。い、いったいいつからバレていたの?」
「最初からだよ」
それを聞いた彼女はフラフラと立ち上がり、天を仰いだ。
「……もう暗くなるし、続きは小屋に帰って話そうか」
彼女は涙を浮かべながら力無く頷いた。