色々寄り道して脱線したけど、無事に水族館に着くことができた。
「グスッ……運転なんて、運転なんてぇ……」
一歌はというと、スピード違反で警察に切符を切られて意気消沈している。なので、最後は俺が運転していた。
「初心者なんだから、こんなこともあるさ。ほら、水族館ついたぞ。気晴らし代わりに行こう」
「……うん」
相当落ち込んでいる。警察に大分スピード違反で詰められて涙目になっていたから、怒られ慣れてないのかもしれない。
◇
「そういえばお義兄様って、早々と免許取ってましたわよね? 何か事情でもあったのですの?」
「事情というか、バイトであったら楽だなと思ったから取った感じかな」
「見て朝陽くん! シャチが泳いでるの!」
さっきまでの意気消沈はどこえやら。一歌はシャチに夢中になっている。
「にしても、美味しそうなお魚達ですわねぇ」
「そうだなぁ。あっ、この魚はタンパク質が豊富だから筋肉に良い作用をもたらしてくれるよ」
「勉強になりますわ~」
「二人とも、魚達を食べ物としか認識してないの?」
◇
「さて、ここのグッズショップにはなにがあるかな?」
「いらっしゃいませ~。って、先輩!?」
「龍宮院さん!?」
「あら、免許センターぶりね」
グッズショップにて龍宮院海斗と邂逅した。俺の大学の後輩で、不二香の想い人である。
不二香は龍宮院を見てから途端に、顔が真っ赤となり乙女の表情になっていた。
「君、ここでバイトしてたのか。こんな山の中で」
「茶化し目的の知り合いが来ない場所がここだったわけです。いずれ先輩には言うつもりでしたが」
俺は不二香と龍宮院を交互に流し見る。両者顔が赤い。それで、俺は悟った。
「一歌。少し二人から離れとこう」
「えっ? どうしてなの?」
「お二人とも待ってくださいまし! わたくしを、わたくしを置いていかないでくださいませ!」
不二香と龍宮院、二人にさせたら面白いことになるんじゃないかと。現に不二香は、口ではそう言いながら、龍宮院の元から離れようとしない。
離れた場所でしばらく観察していると、二人は顔を赤らめながら何かを語り始めた。焦ったい雰囲気だ。今にもくっつきそうで、反面下手をしたら離れていきそうな。
「焦ったいわね……」
「使用人が『はよくっつけや』と言う気持ちが分かる気がする」
数十分たった頃だろうか。不二香が俺たちの元へ戻ってきた。とてもとても、屈託の無い満面な笑みで。
「お話し終わったのか?」
「はい。わたくしを置いていった件で龍宮院さんと相談して、筋肉で解決することにしましたの!」
「えっ?」
「歯ぁ食いしばってくださいまし!」
瞬間、不二香の平手打ちが俺の側頭部へ捉えた。スポーツジムに通ってなければ出なかったであろう威力だった。
「強くなったな不二香……」
何回転か地面を転がったあと、俺の意識は暗転していった……