「アタシと契約しねえか?」
目の前にいる髪も心も真っ黒な女はギザ歯を見せつけながら笑った。
「ああ……そうだな。頼む、俺にざまぁとやらをさせてくれ」
「オーケー、あのクソ女にしょんべんちびらせてやろうぜ」
「お前、本当に汚ねえな!」
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おっす! 俺、
地獄の名は『嘲笑地獄』! みんな俺をあざ笑ってくるんだ!
あ、ごめん! みんなじゃないや! クラスの中心グループが無視してくるんだ!
まあ奴らが無視すれば大半がそれに従うんだ! くそったれマジョリティHAHAHA!
……さ、ということで、これからどうしようか。
原因は分かってる。
俺がクラスの、いや、学校のアイドル、天羽璃々《あもうりり》に告白したからだ。
『天羽! 俺と付き合ってくれ!』
『ごめんなさい、気持ちは嬉しいけど付き合えないの』
『そっか……でも、ちゃんと向き合ってくれてありがとな!』
そして、シェクハンド!
と実に爽やかなフラれシーン。ここで終われば、爽やかB級ラノベだったものを、偶然、トイレ前で天羽の声を聞いてしまったことで、どろどろB級ラノベになっちゃったわけだ。
『昨日さあ、小角にコクられたの! 気持ち悪かった~! 身の程を知ってもらいたいわ~! 勉強も運動もダメ、顔もさえないクラスカースト最下位のヲタクと、私が釣り合うはずないでしょ! 最後意味不明な握手させられて、超手洗ったわその後! ま、アイツ私に惚れてるからなんか困ったことあったら私に言いな。アイツに押し付けるから。キャハハって、小角!?』
はい! お前はB級サスペンスドラマの犯人か! 全部断崖絶壁の崖の上の如きテンションで喋り続けてんじゃないよお間抜けさん!
ま、断崖絶壁の崖じゃなくてアンチ潔癖トイレだったけどね! うまくないね!
そして、こっからB級ドロドロラノベ突入開始~!
そっからは、もう豹変。トイレ前に立ちすくむ俺に対し汚物を見るかのような目で天羽さん率いるカースト上位グループが立ち去ったかと思うと、教室で天羽が号泣してたのよ。
「お、小角君が、私がフッたからって、トイレの前で待ち伏せてて力づくで迫って来て」
うん、君は作家になるといい。B級サスペンス作家になあ!
という俺の心の叫びは、心の空に吸い込まれていき、誰に届くこともない。そして、若人というのは分かりやすい。圧倒的なカースト差があれば、上位種を信じる。かわいいは正義ってことらしい。
一瞬で俺、小角伏人は、告白でフラれた腹いせに腕づくで迫ったど変態野郎のレッテルを迅速丁寧に貼り付けられてしまったわけです、はい。
そういうわけでクラスに居場所がないアガラ。滝のようなアッセをかいたアッシ、小角伏人は我が変態人生の始まり、故郷、アンチ潔癖トイレにて便所飯を試みようと思ったのだが、首根っこをむんずと捕まれ、止められちまったわけだ。
「なんぞ?」
誰かは線香臭い匂いで分かったので、言い方も雑。他の人だったら超丁寧に「ななななななにかごごごごごご用事ですか?」って、人並以上に敬意の接頭語つけまくりすます、サンタさーん! ってなもんですよ。まあ、おいといて。
振り返った先にいたのは、俺と同じくらいの170センチ(俺は171あるからギリ勝っている!)の黒髪ロング背丈もロングな女子。
「どうした、エレ○・イエーガー」
「身長170センチなんて女子にもいるだろが」
「どうしたゴール○シップ」
「まあ、悪くない」
何が悪くないのか分からないが、目の前のギザ歯の悪そうなウザ娘はそう言った。
彼女の名前は