持ってきた資材回収の方は他の人たちの手に渡ったので、タダシは凄まじい勢いで鍛冶場を増設し、新しい道具作りにかかる。
ズバッと耕して新しい鋳型を作る。そこに溶けた魔鋼鉄を流し込んで、こっちは刃を削って木を耕して作った鉋台に組み合わせて……。
「よしできた」
「これはなんですか?」
鍛冶場を仕切っているガラス職人のアーシャが、覗き込んで尋ねる。
「木を削るのに、うちの故郷では
「えええ、新しい鋳型を作ったんですか。どうやってこんなスピードで?」
「うんなんか、いけるなと思って表面を耕したらいけた」
「ほわぁああ?」
アーシャは顎がはずれるほど、あんぐり口をあける。
タダシは、アーシャたち職人の概念をぶち壊してきた。
「サンプルも作っておいたから、これを元に同じものを作ってみてくれ」
「タダシ様はどちらへ?」
「さっそく、大工班の方に使って見てもらう」
新しい大具道具を作って持っていくと、大工たちに大好評だった。
「ひゃー、これは楽に削れるねえ。ひゃー!」
鉋の使い方をすぐ覚えた
「それ無駄に何度もやらなくていいからな」
「ネジも釘を使うよりしっかりハマるし、さすが王様だね」
「役に立ったようで良かったよ」
「これならさらに効率が上がるよ。お前ら、ガンガンやっていくよ!」
平屋を建てている大工班は「おー!」と拳を振り上げる。
「さて、次は何を作るかな」
「タダシ様」
ハァハァと息を切らせながらアーシャが走ってくる。
「おお、アーシャ。次の道具なんだが」
「タダシ様は、働きすぎです!」
まさかそんなことを言われるとは思わず、タダシはキョトンとする。
「お、おう……」
「イセリナ様を見てくださいよ。ぐったりしてますよ」
「あちゃー」
全体の進捗管理しているイセリナは、タダシが各所で新しい仕事を作るので人員配置に走り回ってヘトヘトになって座り込んでいた。
隣でリサが、ぱたぱたと椰子の葉でイセリナに風を送っている。
「タダシ様が凄すぎてみんながついていけてません。ずっと働き詰めだったんですから、少し休まれてはいかがですか」
「そ、そうか。イセリナはあんまり身体が丈夫じゃないからな。アーシャ、よく教えてくれた」
もともと強靭な社畜の精神を持つ上に神の加護で肉体強化まで受けているタダシに、イセリナたちがついてこれないのも当然なのだ。
少し張り切りすぎてしまったかもしれない。
衣食住は確保できているのだから、急ぐ必要はないとも言える。
「砂浜で少し休まれてはいかがですか。ほら椰子の実のジュースでも飲んで」
のんびりしろと椰子の実を渡されて、タダシは砂浜を静かに歩く。
ちょうど、先程タダシが持ってきた食糧を満載してカンバル諸島へと船が出港するところだった。
バタバタと尻尾を振って、クルルが近づいてきた。
口には伊勢海老を加えている。本当、好きだな海老。
「おー、伊勢海老獲りを頑張ってるみたいだな。お前も今日はごくろうだった。少しは休むと良いぞ」
「クルルル」
クルルに食べさせるのに、伊勢海老を焼きながらぼんやりと焚き火の跡を見る。
ガラスを作る時に、海藻を焼いた跡だ。
そして、タダシがジュースを飲めと渡された椰子の実。
「そうだ、良いことを思いついた」
「クルル?」
焼いた海老をバクバクと食べるクルルが不思議そうに見つめる中、タダシはまた謎の作業にのめり込んで行くのだった。
※※※
「アーシャ。ハンマーを貸してくれ」
「また来たんですかタダシ様。もうこれ以上仕事は……これはなんですか?」
「液体石鹸だ」
農業とは人間の営み全てを司るとは農業の神クロノス様の言葉だが、石鹸作りもまた農業の範囲である。
「ふわふわで泡立ちますね。いい香り」
「椰子油と焼いた海藻と少量の塩を混ぜて熟成させた石鹸だ。身体が綺麗になるぞ」
普段は鍛冶場やガラス工芸をやっているアーシャといえども女の子なので、そう聞くとちょっと嬉しい。
「確かに焼いた海藻は洗濯や洗浄に使いますが、こんな使い方があったんですね」
「うむ、そして石鹸ができたとなると欲しいのは風呂だろう」
「お風呂を作るんですか!」
「ああ、試しに一つ作ってみるだけだ。自分だけでやるから、アーシャたちの手は借りない」
「わかりました、私もお手伝いします」
「すまないな」
「だってこんなふわふわの石鹸見せられたら、私だってお風呂に入りたくなりますよ」
そんなわけで、風呂作りが始まった。
せっかく大量にヒノキがあるのだ、目指すはヒノキ風呂である。
※※※
風呂はわりと簡単にできた。
湯を沸かす大釜と大きな浴槽を作ればいいだけなのだ。
農業神の加護
腕の見せ所はこれからだ。
「よーし、そこのノズルをひねってみろ」
「うわ! お湯が出たよ!」
「はは、どうだ凄いだろう。これがシャワーだぞ」
ゴムのホースにつながったジョーロの口から勢いよくお湯が飛び出す。
「ひゃーこれは気持ちいいね。ご主人様、最高だよ!」
これもそこまで難しいものではない。
お湯を沸かした大釜を高い位置に配置したのだ。
栓をノズルで開くと、高低差で自然とお湯が飛び出してくるようになる。
「お前ら普段から水着だから、そのまま風呂に入れるな」
「うん、入ろう入ろう!」
「よし、今日の仕事はこんなものだな。疲れを癒やすためにまったり風呂に入ろう。みんなを呼んできてくれ」
「はーい!」
まず自分で使って確かめなければと、タダシは海水パンツ一枚になってに作った液体石鹸を使ってみる。
「泡立ちはなかなかだな。おー、久しぶりの風呂だから垢が落ちる」
やはり石鹸を作ってよかった。
身体を綺麗にすると、大きな浴槽へとざぶんと浸かる。
クルルの身体を洗う用にも使う予定だから、十人入っても余裕なほどの大きさにした。
ヒノキのいい香りがたまらない。
やはりヒノキ風呂はいいな。
そう思ってくつろいでいたら、湯気の向こうからエリンたちが来るのが見えた。
「お前ら……」
「ご主人様、呼んできたよ」
「……水着があるんだから水着を着ろぉおおお!!!」
なんで裸になるんだよ。
水着の意味がないじゃないか!