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第69話「戦争はまだ続くがとりあえずめでたい話」

 タダシ王国側には被害が少なく、ドラゴンとワイバーンという強力な軍団を味方に引き入れることができた。

 これも、大砲や鉄砲という対空防御にも使える素晴らしい兵器をオベロンたちドワーフが作ってくれたおかげだ。


「オベロン! 本当によくやってくれた」

「ガッハッハ! 王様。ワシらの活躍、見てくれたか!」


「ああ、大砲と鉄砲がなければ勝てなかっただろう。質もさることながら、よくぞこの短期間の間にこれだけの数をそろえたものだ」


 構造は比較的単純な前装式ぜんそうしきだが、この世界の技術で量産がいかに難しいかを知っている。

 寸分違わず同じものを作れるドワーフの職工の技術力がなければ、量産は達成できなかっただろう。


「帝国から図面は手に入れておったし、自分達で試作もしたことがあったしの。こしらえるのはそんなに難しくないわい」

「なるほど、元からある技術だったのか」


 おそらく帝国にいた転生者のもたらした技術なのだろう。

 設計図があったとしても、使えるレベルの物がすぐ揃えられたのはドワーフの名工オベロンの技術力あってのことだろう。


「むしろ、ワシらは王様に感謝しとるよ」

「俺に?」


「魔鋼鉄のおかげでどんな強い火薬で弾を飛ばしても砲身はびくともせんし、手に入りにくい火薬の原料の硝石を大量生産してくれたのも王様じゃろが」

「ああ、そんなことを言ってたな」


 この世界では硝石が手に入りにくく、それで鉄砲もあまり広まっていないということだった。

 硝石丘を作っても通常なら何年もかかるし、それで硝石が大量生産できるというわけでもないのだ。


 こんなに大量の硝石が手に入るのは、タダシの規格外な農業神の加護☆☆☆☆☆☆☆セブンスターがあってのことだ。


「もちろんワシらの腕は世界一よ。だから、ワシらと王様の合わせ技じゃな」

「オベロン達の活躍あってのことだが、そういうことにしておこう」


 タダシも時間があったら大砲造りを手伝いたいところだった。

 それにしても、魔鋼鉄の大砲は見れば見るほど惚れ惚れとする出来だ。


 青く光る砲身が美しい。

 不眠不休の作業だっただろうに意匠にまで凝っているあたり、さすがは名工の技だ。


「本当のところを言うと、ワシらも魔鋼鉄砲の威力に驚いてるところじゃ。試し撃ちもろくにできん間に実戦だったからのう。結果オーライじゃったから良かったが」

「これ、魔牛車に載せて戦車にできないか?」


 タダシがぼそっと言うと、オベロンが目を剥いた。


「そうか! 砲身が重いから移動がネックじゃと思っておったが、兵隊に運ばせなくても魔牛車に載せればよいか。さすが王様じゃ! こうしてはおれんぞ、おいみんなを集めろ。すぐに魔鋼鉄砲を載せられる台座を設計するぞ!」


 思いついたら試さずには居られないのだろう。

 オベロンたちは、また慌ただしく仕事を始めてしまった。


「タダシ陛下。オーガ地竜騎兵団を戦列に加えていただき、ありがとうございました」


 次にタダシの前にやってきたのは、ガリアテ将軍の息子グリゴリと八部族の族長たちだ。


「礼を言うのはこちらのほうだグリゴリ団長。オーガ地竜騎兵団の頑張りのおかげで、大砲隊や鉄砲隊に損害が出なくて済んだ」


 グリゴリたちは、身をていして接近するワイバーンと互角に渡り合ったのだ。

 まさに八面六臂はちめんろっぴの活躍だった。


「竜種たちがこちらを甘く見たのが幸いでした。最初に襲ってきたのがワイバーンでなく、ドラゴンであったなら大きな被害を出してしまっていたでしょう」


 グリゴリは、そう言って謙遜けんそんしてみせる。

 いや、謙遜というより冷静な戦況分析といえるか。父親譲りの優秀さである。


「そのドラゴンも、今はこちらの味方だから心配はいらない」

「そのようですね。タダシ陛下が伝説の魔獣フェンリルを使役しておられるのに驚きました!」


 グリゴリは目を輝かせて言う。


「使役というか、俺のペットなんだけど」

「最強の竜種が恐れる伝説の魔獣をペットと言われるとは、タダシ陛下の側に付けと言われた父の遺言の意味がわかりました!」


「グリゴリ団長は本当に良い働きをしてくれた。これからも期待している」

「ハッ! それでは後片付けがありますので失礼します」


 颯爽と去っていくグリゴリの背中を見送りながら、いずれ父親のような立派な将軍になるのだろうなと思う。

 戦争も一段落したのでクルルに乗って王城へと戻ると、マールたちが出迎えてくれる。


「タダシ様! 無事の帰還おめでとうございます!」

「とりあえず勝てたよ」


「タダシ様のことなので心配してはおりませんでした。あの……戦争中にこんな話をするのもなんなのですが、こういうことは早めに伝えた方が良いのではありませんかイセリナ様」


 マールが、イセリナにそううながす。


「留守中に何かあったのか?」


 イセリナが、前に出てきて言いにくそうにモジモジとしている。

 一体なんだろう?


「あの、こんな大変な時に申し訳ありませんが……」

「どうしたんだよ、みんなして」


 みんな笑いをこらえている。


「……タダシ様のお子ができました」

「本当なのかイセリナ!」


 そう肩を抱いて尋ねるタダシに、イセリナは恥ずかしそうに目を伏せて、小さく頷く。


「はい……」


 タダシは、ついに父親になるらしい。

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