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第24話「ゴブリンキング討伐!」

 クコ山を知り尽くしているケインは、ほぼ一直線にゴブリンの巣窟に向かっていた。


「ここだと思ったんだが、さっきの爆発は一体何だったんだ」


 もしや、敵に魔術師がいるのだろうか。

 極稀にゴブリンマジシャンという魔術を使うゴブリンがいるとも聞くが、あんな大魔法は使えるわけもないのだが。


 恐る恐ると、巣穴だったところに入っていくケイン。

 偵察の役目だけは、きっちり果たさないといけないと思ったのだ。


 しかし、どこを見回してもゴブリンの黒焦げの死体しかない。


「同士討ち?」


 いや、まさかそんなことはあるまい。

 そのとき、ガタッと物音がして何かがケインの側に倒れてきた。


「うわ!」


 思わずケインはミスリルの剣を振りかざすと、そこにグサッと刺さったのはゴブリンキングの頭であった。

 それはもはや、死んだほうがマシという激痛に見舞われたゴブリンキングの自殺だったのかもしれない。


 そうして、そこに大きな火柱を目撃して慌てて急行した討伐隊の本隊がちょうどやってくる。


「おい、これはゴブリンキングじゃねえか」

「ケインさんがやったのか!」


 驚愕する討伐隊の冒険者たち。

 特に、ことが起こってから最初に乗り込んだAランクのパーティー『流星を追う者たち』のメンバーは、ケインがゴブリンキングを突き刺すところをしっかりと目撃してしまった。


「あらら、アベルはどうするのかなあ。これはもうゴブリンロードをやるどころの騒ぎじゃないよねー」


 女盗賊のキサラがアベルをからかう。

 黙りこくったアベルは、ゴブリンキングの頭を突き刺したままで呆然としているケインのところに行くと、深々と頭を下げた。


「おっさん、いやケインさん、すまなかった。Dランクだと見くびっていたことは謝らせてくれ」

「え、ああ、それは別にいいんだけど……」


 青髪の剣士アベルは、意外にも素直だった。

 やはり若くとも、Aランクまで上り詰めた英雄ではあった。


 まだ二十歳前という若さもあって、ケインにひねくれたことも言ったが。

 己が眼で実力を見せられれば、相手を勇士と認めるだけの器量はある。


「そうか、許してくれるか。これからは、ケインさんが俺のライバルだ!」


 実力を認めた途端に、今度はケインをライバル認定してくるアベル。

 潔いのは良かったのだが、やっぱり面倒な人だった。


「いや、俺はなにもやってないんだけど」

「俺はケインさんがゴブリンキングを倒したところを目撃してる。俺だって一人で倒せるかどうかわからないモンスターだ。過ぎた謙遜は、嫌味ってもんだぜ」


「いやいや、ほらよく見てくれよ。ゴブリンはみんな魔法で焼かれてるみたいだけど、魔法使いじゃないんだから炎球ファイアボールの魔法とか使えないし」


 それに答えたのは、消し炭になったゴブリンを調べていた黒髪の魔法使いクルツだ。

 瓶底メガネをかけて、小柄な身体でやたら魔導書をたくさん背負って歩いている地味な彼だが。


 こう見えてもエルンの街最強のAランクパーティー『流星を追う者たち』のメンバーであり。

 王国の魔法学校を次席で卒業している、優秀なAランクの魔法使いである。


「これは、炎球ファイアボールどころの火力ではありませんよ。伝説の大規模魔法、獄炎殲滅尽フレア・デストロイアぐらいでないとこれほどにはなりません」

「クルツは勉強してるのにバカだねー。ケインさんがそう言ってるんだから、そうなんでしょ」


「いやあ、初級の魔法でまさかそれはないですよ」

「ケインさんが炎球ファイアボールって言ってるんだから、炎球ファイアボールなんだよ」


 女盗賊のキサラにそう何度も言われて、ハッと気がついた顔をする魔法使いクルツ。


「そういえば、どこかで読んだことがあります。ちょっと待ってください。あっ、ありました!」


 メガネのクルツは、背負っている書物の一冊を取り出して、めくりながら朗読する。


「アウストリア王国英雄列伝、二百三十八ページ『伝説の大賢者ダナ・リーン』の章! 王都にオーガ・ロードの率いた三百匹ものモンスターの襲来あり、大賢者ダナはそれらを一瞬にして焼き尽くしたり。傍らの魔術師尋ねたるに『なんと、ダナ師は獄炎殲滅尽フレア・デストロイアを無詠唱で?』。師曰のたまわく『これは炎球ファイアボールだ』と……」


 あたりは、シーンと静まり返る。

 誰も語らなかったが、思いはひとつだった。


 ケインはもしや、伝説の大賢者ダナ・リーンと同等の魔力を!?

 いやいや、君たち何言ってんのと、ケインは呆然とする。


 気を取り直したケインは、みんなに説明する。


「だから、俺が来たときはみんなやられてたんだって」

「そうだ、そうだな……ケインさんはやってない。そういうことだ、みんなもわかったな!」


 巨漢のランドルが、パンパンと手を叩いて言い聞かせた。

 つまり、このことは内密にということかと、みんなも顔を見合わせて神妙に頷く。


「いや、だから本当にやってないから!」

「まあまあ、ケインさん。丸く収まったんだからいいじゃないか」


 全然丸く収まってないんだが、もうそうするしかしょうがなかった。

 ちなみに、ゴブリンの巣窟討伐の報奨金は、その権利のほとんどがケインに渡ったが、倒してもいないモンスターの代金を受取るわけにはいかない。


 それに今回の報奨金の大半は、貧しいクコ村が出した費用である。

 そこで、ケインはクコ村で不足している食料や日用品などに替えて、被害を受けた村に支援物資として匿名で送ることにしたのだった。

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