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第100話「命の価値は」

 ドワーフとエルフの交渉もお構いなしに、村に続々と乗り込んできたオークやゴブリンの群れが村人に襲いかかっている。

 魔女マヤは、このモンスターの襲来を好機だと言う。


「どういうこと?」

「モンスターは、エルフとドワーフにとっても敵やろ。ここでお互いに協力して戦えばええんや!」


 しかし、マヤの言う通りに事は進まなかった。

 エルフの弓兵や魔術師は襲われたエルフの村人を助けてモンスターと戦っているが、ドワーフたちは冷めた顔で見ているだけだ。


「そうなってないみたいだけど!」

「ちょっと、なんでや。モンスターは共通の敵やろ。一緒に戦わんかい!」


 マヤに詰め寄られたドワーフの戦士たちは言う。


「なんでワシらドワーフが、エルフを助けねばならんのじゃ」

「そうじゃ。樹木臭い耳長なんぞ、勝手に死ねばええ」


 お互いに長年憎しみ合ってきた相手なので当然なのかもしれないが、そんな酷いことを言って助けてくれない。

 弓兵や魔術師ばかりで、接近戦のできる戦士が少ないエルフたちは、倒されても倒されても湧いてくるモンスターの群れに徐々にされていった。


「助けて!」


 悲痛な声が響く。

 子供を抱えたエルフの母親が逃げ遅れて、ゴブリンたちに囲まれていた。


「このまま見てはいられない。俺は行く」


 ミスリルの剣を抜いて、ケインは駆け出した。


「あ、ケインさん!」


 かつてアルテナをゴブリンに殺されたケインは、女性がゴブリンに襲われるのは絶対に見過ごせない。

 強い怒りを感じて、その瞬間だけは恐ろしいとも思わずに、ゴブリンの群れに飛び込んでいく。


「やらせないぞ!」


 数は五、いや六匹。

 この数を一人で相手にするのは初めてだ。


 いきなり二体を斬り伏せる。

 ゴブリンの構えた槍の錆びた矛先が、ケインの頭をかするように通り過ぎていく。


 勢いよく飛び込んだのが良かったのだろう。

 アルテナも助けてくれたのかもしれない。


 槍を持った三体目も続けて倒す。

 ミスリルの剣は、凄まじい切れ味を誇る。


 Dランク冒険者のケインの腕でも、当たりさえすれば倒せる。


「そうか、そういうことやな。よーし、景気よく炎球ファイヤーボール乱れ撃ちや。爆ぜろ!」


 魔女マヤがそう叫ぶと、ボォオオオ! と残り二体のゴブリンの身体が炎上した。

 ゴブリンだけではない。


 襲いかかってきた、オークの群れにも次々に、火炎の球が落ちていく。

 ドワーフが思う通りに動いてくれなかった腹いせもかねて、ちょっとオーバーキル気味に撃ち込んでるのはご愛嬌である。


 モンスターを利用してドワーフと協力して話を丸く収めることを諦めたマヤは、向こうがそういう態度ならやったれと、魔力の高さを見せつけたつもりであった。

 ケインは、モンスターが倒れたことにホッとすると、「大丈夫ですか」とエルフの母子の様子をみてやり、転んだ時にできた切り傷を薬草で治療していた。 


 泣いているエルフの幼児にも、お菓子を渡してあやしてやる。


「本当にありがとうございます!」

「無事で良かったですよ」


 そこに、ドワーフの大王バルカンが兵士を引き連れてやってきた。

 怖がって、また子供が泣き出してしまう。


「おい人族。貴様はなぜ、傲慢なエルフどもをそんなに必死に助ける」

「なんでお前たちは助けないんだ」


 戦闘の興奮もあって、ケインは気が立っていた。

 相手がドワーフの大王だというのなら、なおのことだ。


 子供を泣かせているのに、こいつは何を言っているのだと怒りを感じた。


「エルフとドワーフは……」


 そう言いかけるバルカンの言葉を遮って、ケインは叫んだ。


「眼の前で子供が殺されかかったんだぞ! 助けるのにエルフもドワーフも関係あるのか!」


 バルカンは、そのケインの言葉に黙り込んだ。


「こいつ、ワシらの大王様になんて失礼な口の聞き方じゃ」

「覚悟はあるんじゃろうなあ!」


 斧を持ったドワーフの兵士たちが、ケインを取り囲む。


「あんたら、ケインさんに手を出したらうちが黙っとらんぞ!」


 マヤは慌てて、魔術師の杖を構えた。

 先程の魔術の腕はドワーフたちも見ているので、緊迫した空気が流れる。


 バルカンは、さっと手を出して兵士たちを止めた。


「皆のもの待て。おい、そこの人族の冒険者と魔術師」

「なんや!」


「貴様らを、うちの国へ客として招くことにする」


 お付きのドワーフたちは、びっくりしてバルカンの顔を見た。


「客やと、まさか誘い込んでだまし討ちするつもりやないやろうな」

「そんなことはドワーフの誇りにかけてせん。貴様らが仲介役というのであれば、今回のエルフとの諍いの件もそこで話を付けてやろう。それでいいなエルフの女王」


 ローリエに向かってそう宣言すると、バルカンはケインとマヤをオリハルコン山の地下王国へと連れて行くのだった。

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