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第175話「庭先にて」

 ケインも、久しぶりに休日を取ることにした。

 一日家でゆっくりするつもりだ。


 みんなに休め休めと言われるので休日を取ったのだが、どうもじっとしているのは性に合わない。

 ヒーホーに餌をやって、庭木の手入れでもしようかと外にでるとケインは「おや」と足を止めた。


 聖獣人のテトラが、白ロバのヒーホーの上にぐたーと身体を任せて眠っている。

 器用なことをしているなと笑ってしまう。


「ヒーホーもよくじっとしてるよな」


 凶暴な見た目なので獣に恐れられるテトラなのだが、ヒーホーだけは恐れずに懐いている。

 ベガサスにも変身できる聖別されたロバであるヒーホーは、やたら肝が太いのだ。


 懐いてくれるヒーホーをテトラも憎からず思うらしく、よく庭で一緒にじゃれているのを見かけるのだが、これは乗りながら眠ってしまったんだろうか。


 まるで子供みたいだな。


「ん、あるじ? うわ」


 そのままダランとヒーホーの背中からずれおちて、庭の芝生の上に落ちるテトラ。

 白虎の獣人なので、身体がとても柔らかいのだ。


「ハハ、寝るならちゃんとベッドで眠ったほうが良いと思うよ」

「我はどこでも眠れる」


 そう言いながら、ゆらっと起き上がってくるテトラ。

 ケインは、ヒーホーを撫でてやる。


「お前は優しいやつだよ。よしよし」

「ヒーホー、ヒーホー!」


 テトラを起こさないようにじっとしていたヒーホーは偉かった。

 ヒーホーは、子供の世話もできる賢くて優しいロバなのだ。


 ケインはご褒美に持ってた人参を、ヒーホーに食わせてやることにした。


「あるじ……」


 テトラの様子が少しおかしい。

 寂しがる子供のようにすり寄ってくるので、ケインはたてがみを撫でてやる。


「どうしたんだい」

「昔のことを思い出していた」


 テトラと、初めて会ったのもこの庭だった。

 出会ったときのテトラは、猛々しく強いのに全てに怯えている子供のようにケインには見えた。


 昔に何があったかは知らないが、呪われた獣魔として村から追われたテトラにはとても怖いことがたくさんあったのだろう。

 大きくて強いから恐ろしくないわけじゃない。


 強い力を持つ生き物は、その分だけ戦うことを強いられて多くの返り血を浴びることになる。

 それはやはりテトラが生まれ持った悲しい呪いなのだろう。


 最初に会った時には、庭の木の上で寝るほうが安心だって言ってたなあと思い出す。


「テトラは、今でも木の上で寝たほうが良いと思うかい」

「必要があれば今でもそうする。でも、我はみんなと家の中で寝るほうがいいのだ」


 吹っ切れたようにそう言うテトラに、ケインが何か言おうとしたのだが。

 そこに突っ込んできたヒーホーが、濡れた鼻先をテトラの頬にすりつける。


「うはは、何をするのだくすぐったいのだ!」

「ヒーホーヒーホー!」


「きっとお腹が空いてるんだろう。ヒーホーに餌をやる時間だから、テトラも手伝ってくれ」

「わかったのだ!」


 元気に駆けていくテトラとヒーホーの姿を眺めて、ケインは笑う。

 テトラにとって、自分の家が安らげる場所になってくれたらいいなと思った。


「そうだ。この木にブランコでもぶら下げてみるかな」


 今日は時間があるから、子供が遊べるような遊具でも作ってやろうかなと思うケインだった。

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