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アイコトバ ハ 心・技・体
アイコトバ ハ 心・技・体
河鹿虫圭
現実世界青春学園
2025年05月27日
公開日
7,485字
完結済
短編読み切りのため、あらすじと物語が噛み合ってません。ネオページだけで公開です。気が向いたら更新することがあるかもしてませんが、完結にしてます 3人が欠けた心技体を学び、真の武闘家になる話(だった)

アイコトバ ハ 心!技!体!

武術とは、道具である。心得がどうとか、精神を鍛えるとか、結局人の心は満身創痍の時や、絶望には勝てないのだ。仏がどうとか、神がどうとか説いている間に相手はこちらを殺しにやってくる。


だから、俺はこわ高々に言い続ける。


武術は道具だと……。


朝起きる。登校時間はすでに過ぎており、いつも通り遅刻するように家を出る。近くの自販機でエナジーパートナーを買って飲み干した後、締まる校門と中に入っていく生徒指導の屈強な先生を見てから校内に入る。玄関に入ると俺の行動を予知していたのか、先ほどの生徒指導の先生が声をかけてくる。


「こら、技道ぎどう。今日も遅刻か?内申は大丈夫なのか?お前、成績いいんだから生活態度に気をつけろよ?」


「…っす。」


俺は短く挨拶をすると担任がHRの準備をしている職員室へ行き遅刻の届けをもらう。痰飲は相変わらず優しく微笑みながら「気を付けて」と言って小さな紙切れを一枚手に渡してくる。俺は会釈して職員室を後にして教室へ向かわずにどこか先生たちの目に着かないところでサボろうと考えて玄関付近に向かっていると階段の手前で腕を組んで仁王立ちする見覚えのある顔が眉間にしわを寄せて俺のことを待っている様だった。


てい…」


「またサボろうとしてましたね。しんくん。」


「くん付けやめろ。もうガキじゃない。」


心根こころね てい。幼馴染で幼稚園の時から同じ学校を経て高校も同じになった。いや、こいつとあと一人に無理やり同じ高校を受けさせられたんだ。俺が喧嘩しないようにだろう。昔から仕切りたがりで遊ぶ時も勉強するときも俺ともう一人よりも一歩先にいる。もちろん、俺よりも努力しているのを知っている。だから苦手だ。三人一緒に。なんて昔から変わらずに笑顔でうんざりする。


一歩後ずさると背中に固い感触が当たる。引きつっているであろう顔を向けると180㎝を優に超える巨人がいた。もう一人の幼馴染体岩たいがん 覇漸はざだ。中学生くらいからいきなり背が伸びはじめて今や200㎝に近づいていると本人は言っている。


覇漸はざは縮こまった俺に対して抱きしめるように手を広げて俺を捕まえようと素早く閉じようとする。俺はそんな覇漸はざの背後を驚いたように見つめわざとらしく指を差す。


「あ、猫だ。」


「なんだって。大変だ、すぐに逃がしてあげないと。」


振り向いた瞬間、俺はすぐに帝の方へ向き、わざとにやりと笑って見せて足を踏ん張って帝を振り切り階段の踊り場の窓から外へ飛び出す。高さ約3~4mの高さに少しビビったが、内臓がひっくり返りそうな感覚をかみしめて着地の体勢を取り地面が近づくと同時に手と、足をついて転がって反動を弱める。窓の方を見ると帝が身を乗り出しているのを覇漸はざに止められている。


「真くん!危ないでしょう!怪我はないですか!?ちょっと待っててください。救急箱を持ってそこに行きますから!」


「いや、帝。その間に真は逃げるから今回も諦めよう。無理強いは良くない。真~!いつでも待っている!今日はもう、追わない。」


「そうかぇ~!?んじゃ、今日も俺の勝ちだな!?」


二人は少し残念そうな表情をして窓を閉めて階段を登っていった。全く、お節介焼きはこれだから困るぜ。俺は旧校舎の方へ向かい良さげな場所を物色する。その時誰もいないはずの旧校舎の中から笑い声が聞こえてきた。声の方へ向かっていくとそこには三人の生徒が一人を囲んでその一人の生徒に携帯を向けていた。生徒は真ん中で何か変な踊りを踊っている……いや、踊らされている。ぎこちない体の動きにそう直感した。横に揺れて奇怪なステップを踏んでいるがリズムとあっていない。短い動画投稿アプリであんな風な踊りを見たことがあるが、全く理解できない。成人して会社に入ればそんな動画は黒歴史になるのになんで投稿しようと思うのだろうか。兎にも角にも俺には関係ない。が、少しむかついたのでお灸を据えることにしよう。勢いよく木の戸を開けて大きな音を出して注目を集める。よく見れば、三人は三年の不良共だった。真ん中の生徒は同級生か?一個上の先輩か?ま、どうでもいいか。


「なに?今俺らが使ってるの見えない?」


「いや、知らんですけど。それより、その人、とても嫌がってるように見えたんですけど……もしかしていじめっすか?高校三年生にもなって恥ずかしいって思わなんすか?」


三人のうちの黒髪のひげ面は首と拳を鳴らしながら近づいてくる。


「お前なに?俺らがここの頂上てっぺんの長谷さんの仲間って知ってて煽ってんの?」


誰だそれ。知らん。てか、この学校の不良ってそんな規模が大きいんだ。知らなかった。


「いや、不良の仲間ならなんで一般の生徒いじめてんだよ。普通カタギに手ぇ出したらダメだろ。部をわきまえて線引きしろよ。」


「てめぇ!年上に向かってなんで口きいてんだ!」


拳を振り下ろしてきた瞬間、相手の力を利用して流れるように投げる。その場で天地が逆さまになる黒髪はぽかんとした顔で天井を見つめていた。


「どうしたよ。そんな鳩が豆鉄砲喰らったような顔して。それとも、何か用事を思い出したかい?」


黒髪は怒りの表情ですぐに立ち上がり、ボクシング特有のステップを踏み始める。拳を交互に素早く出してシャドーボクシングも始める。確かに、経験者の動きだが、少しかじった程度の動きだ。重心移動がぎこちない。


「てめぇ、俺を本気にさせちまったよ……長谷さんの右腕である。俺をよぉ……」


両手を構えるが、ボクサーが喧嘩していいのか?どうでもいいか……俺が同じようなこと言えないし…。黒髪は俺が手招きで挑発すると大声を出しながら殴り掛かってくる。やはり、ここ数か月で習い始めた様子だな。速度が遅い。それに、本物のボクサーと比べて体の作りがなっていない。俺が軽く避けただけで額に汗を浮かべて肩で息をしている。煙草をやっている証拠だ。香水をきつけにかけているのは匂いけしもあいまってか。


黒髪は避けた俺と目を合わせると首をかしげておかしいなと言う椀ばかりにステップを踏みなおして殴り掛かってくる。そもそも、殴り掛かってくるのが間違いだ。ボクシングはお互いに間合いを詰めてから拳を繰り出す。それが殴りながら向かってきたら避けられてカウンターをもらって不利になる。三発目殴り掛かってくる黒髪の拳の前にわざと近づきギリギリで避けてみせる。


「舐めやがって!!」


やっと拳を撃つ前に距離を詰めジャブを打ってくる。それはそのジャブをよけてある程度距離をとる。そして、ボクシングの動画を思い出したり、昔の映画を思い出したりして、見様見真似のステップを踏みエセボクシングを始める。


「……へぇ、お前もやっての?」


いや、やってない。と言うか、プロが見たらすぐにいろいろなことを指摘してくるような大雑把な体の動かし方だぞ。すぐに俺はプロとかがやっているの真似をしてガードをしながら距離を詰めて黒髪のジャブとかストレートを大げさに躱す。そのまま距離を詰めて見様見真似のアッパーカットをする。するとマグレでたまたま黒髪の顎に当たり黒髪はノックダウンした。


「あ、やっべ…」


見ていた二人は黒髪へ近づき意識の有無を確認すると黒髪は奇跡的にすぐに起き上がりなんかごちゃごちゃ言って俺と囲まれていた生徒の前から急いで逃げて行った。


「お、お前ら、長谷さんに報告だ。て、てめぇ、覚えとけよ。」


「この借りは必ず返してやるからな」


「そーだそーだ!」


いや、三流の悪役みたいだな。


一連の流れを見ていた生徒は俺に近づき手を握って感謝してきた。


「ありがとう!この恩は一生忘れません!」


俺は背筋に悪寒が走るのを感じて手を振り払って教室を後にしようとしたが、生徒は追いかけてきて勝手に自己紹介を始める。


「ぼ、僕は百道ももち 武人たけとって言います。あなたの名前は……」


「やめろ。俺は少なくともあんたより年下だ。あと、名前も教える気もない。」


「えぇ、そうなの?!確かに僕は二年生だけど。なんで見ただけで判別できるの?入学してまだそこまで経ってないと思うんだけど…」


めんどくさい。こいつのせいで散々な目に巻き込まれそうな気がする。ここは適当言って逃げるか。


「目と記憶力がいいだけですよ。では、俺はこれで。」


「あ、ちょっと待ってよ。さっきのような奴を倒せるんだったらさ。君さ僕の用心棒になってよ。」


あ…コレ、とても面倒くさいやつだ。俺は、先輩のほうへ向くと思い切り目の前で柏手かしわでをする。つまるところ猫だましをして目を閉じた瞬間、逃げた。後ろからお~いとか何とか聞こえるが、聞こえないふりだ。俺は今日サボるって決めたんだ。絶対何が何でもサボる。そう心に誓ったのに…どこにも休める場所がない。影のあるところとか人気のないところに行けばなぜか不良たちがいる。


「おいおい、まさかあの短時間で情報共有したんじゃねぇだろうな…不良の情報拡散能力、恐るべし。」


昼休み前の授業。俺は結局、教室に顔を出して自分の机に突っ伏す。しかし、四時間目が数学と言うのもあって口うるさい教科担任から注意を受ける。そのため、仕方なく教科書を出してノートにメモを取り、渡されたプリントをすべて解く。


「ぜ、全問正解…普段から授業に出てやればできるんだからもっと頑張らないと。」


「…っす。」


乱暴にプリントを取って授業終わりまで机に突っ伏し、授業終わりと同時に昼飯を買いに行こうと教室を出ると後ろから幼馴染二人が駆け寄ってくる。


「真くん。突然授業に出るなんて珍しいじゃないですか。どこか具合が……」


「いや、さっきの様子だと、何か変なことに巻き込まれそうになっているな?真。」


覇漸はざ正解…」



俺は、二人に付きまとわれる前にさっきあった出来事を洗いざらい話す。話を聞いていた二人は話し終わるころには憐みの視線を向けてきていた。


「ドンマイです。それ、多分面倒なことに巻き込まれていますよ。」


「そうだなぁ……多分それ、放課後にボロボロのその助けた先輩が駆け込んできて…」


そう言っていると早くもその助けた先輩がボロボロの状態で俺たちの前に現れた。いや、まだ昼休みじゃぞ。先輩は俺のほうにすがってくると足元にしがみついてくる。


「た、助け…助けてくだ……」


その場で気を失うと帝と覇漸はざはご愁傷様と合掌する。


「いや、この場で手を合わせると俺がこいつをやったみたいになっているからやめろ。」


「いや、巻き込まれご愁傷様です。」


「すまんな俺がフラグとかいうやつを立ててしまったばかりに……」


「だから、手ぇ合わせんなって。」


俺らは先輩を保健室へ連れて行きベッドへ寝かせる。後ろでは養護教諭が合掌している。


「いや、だから手合わせんなって。」


「とうとうったのかなって……」


「俺は何もやってねぇの!」


思わず声を荒げてしまった俺はため息を吐きながら横たわる先輩へ近づく。本当はガラじゃないんだが、今回だけは特別だ。俺があいつらに手出ししたこともあるし。先輩の頬をパチパチと叩く。


「起きろ~先輩~誰にやられた~」


先輩はうっすらと目を開けて慌てて体を起こす。そして、襲い掛かってきそうな勢いで俺の肩に手を置いてくる。


「た、たす、助けてくれ!例のアイツが君を出せって!」


「……というか、先輩はさ。実際真面目ちゃんなの?それともただの下っ端さん?」


先輩は肩から手を放して黙り込む。そんな先輩を見て帝と覇漸はざは何か勘づいたような顔でこちらを見つめている。先輩は先生もいる中でその重い口を開く。



「実は、僕、お金持ちだからさ……カツアゲの対象になっちゃって…それでここ数か月お金を取り上げられないように色々下僕みたいなことをしていたんだ……」


背筋に悪寒が走る。いつもそうだ。他人の悲痛な事情なんかを聞いたら、普通の人間なら助けたいとか思うのだが、俺はなんでかそんなことを聞いたり見たりすると背中に悪寒が走る。昔から薄情とか自分勝手などと言われるが、俺自身も自分で薄情だと思う。悪寒が走る理由は、俺にもわからない…自己解釈ではこれは防衛本能か何かだと思っている。


「俺が勝手に乗った船ですし、今回は助けます。でもこれからいう二つのことを約束してください。」


「なんだい?」


「これからはまず、金持ち自慢をしないこと。そして、これから俺があなたを助けたことを他言しないこと。いいですね?」


「わかった。この状況から逃れられるのなら僕はなんでも言うこと聞くよ。」


「わかってます。んじゃ、行ってきます。」


踵を返すと幼馴染二人が腕を組んでこちらを見つめている。


「なんだよ。」


「協力しましょうか。」


「俺ら三人が揃えば、誰にも負けないだろ?」


「悪寒が止まらねぇよ……でも、心強いな。」


俺ら三人は先輩に場所を聞いてそこへ向かった。町外れの廃工場に不良がみんな尊敬してる長谷とその連中が待っているみたいだ。とういうか。


「俺は別にサボっても何ら気にされないが、お前ら二人は大丈夫なのか?」


「私たちは別にたまにサボるくらいには内申点は大丈夫なので。」


「そうだぞ。こんな時の信頼だ。」


「いや、違うだろ。」


と、コントみたいなやり取りをしながら俺ら三人は廃工場へと向かい午後の授業をサボった。徒歩数分後、俺らは廃工場のある場所へ着く。工場の入口では不良たちが集団で待っている。俺らを見つけるとじわりじわりと近寄ってくる。俺らも臆することなくそこへ近づく。


「おいおい、真面目っぽい人たち~今ここは南校の番長が人待ってるからさ~駄弁るんなら公園行ってよ~」


「その番長に呼ばれた技道だ。」


不良たちはニヤニヤとしながら俺の方へ迫ってくる。


「おいおい、どんな奴かと思えば彼女と友達を連れてきた弱虫じゃねぇかよww」


「女と友達連れてくるなんて飛んだヘタレじゃねぇかww青瀬(黒髪)はこんな奴に負けたのかよww」


「あの、嗤うのは別にいいっすけど長谷先輩はどこっすか?まさか逃げたりとか……」


嗤っていた唇ピアスのモヒカンが拳を振るってきたが、それを覇漸はざが受け止める。


「すまないな。うちの真は少しひねくれているんだ。」


その優しい圧に負けたモヒカンは覇漸はざにおびえながら拳を緩めて俺ら三人を通してくれた。そして、奥へ行くと残りの不良たちは何かを察して絡らんでこず静かに工場の扉を開けた。中にも不良たちがいるが、外にいた奴らと違い強者のオーラを一部纏ったものが多い。その奥に俺とエセボクシングをした黒髪がタコ殴りにされている。やっぱ右腕とか何とか言ってたけどそんなの嘘だったんだな。


殴っている連中がこちらへ気づくとそのまた奥で眠っている一人だけ明確にオーラが違う不良を起こした。おそらく長谷とかいう奴だろう。その長谷は起こした仲間へ拳を一振りしてあり得ない距離を吹き飛ばす。


「あぁ…わりぃ……で、そこの黒髪ボコしてチョーシのってるってのはそこのでかいの?それとも、隣の小さいの?……それとも……」


俺に指が向くと明らかに空気がピリついた。そして、殺気がこちらに向く。仲間をボコボコにしたあだを見つめる目ではない。自分自身のプライドに傷がつけられた身勝手な殺気だ。


「……あんたが先輩から金をむしり取っているって聞いたんで。止めに来ました。」


「……違うなぁ……お前、ただ、乗りかかった船に最後まで乗るだけなんだろう?拾った子猫を見捨てられず、結局最後まで面倒見て猫かわいい~って言っている奴だね……」


そうなのか?別にそんな子猫見捨てればいいだろう。


「そんな話どうでもいいんですけど。とりあえずタイマンして俺が凹したらもう、先輩に近づかないでください。」


長谷は怒ったような、だが、それを隠すように眠そうな顔で笑顔を作る。



「いいね。生意気な一年、そういうの好きだよ。俺。」


そういって瓦礫の玉座を飛び降りて俺たちの方まで近づいてくる。


「タイマンっつたよね。んじゃ、彼女へ友達は下がってね?」


帝と覇漸はざはうなずきながら下がる。そして、俺と長谷を取り囲んで不良たちが円を作り見守る。


「んじゃ、始めようよ。」


長谷は拳も構えもせずに俺の一手を待つ。周りがだんだんと騒がしくなってくる。俺は、このまま黙ってても仕方ないと思い試しに適当に殴ってみる。長谷はその拳をよけず受け止めずただただ、顔面に受ける。鼻血を流すとにやりと口角を上げてポケットから手を出し拳を握り前へ突き出す。乱暴だが、力強い正拳突き。俺はその拳をよけて距離をとる。


「へぇ、やるじゃん。」


「頑丈だな。極真か?」


「さぁね…どっちだろうね。」


長谷はまたもにやりと笑うといきなり距離を詰めながら中段蹴りを入れてくる。こちらも乱暴ながら力強い相手を殺す勢いの蹴りだ。やはりこいつ極めているな。その後も見本と応用を合わせた拳と蹴りを浴びせてくる。俺だって武術を習っている身だが、この蹴りや拳を受けきる体は持ち合わせていない。だんだんとダメージが蓄積されていき防御できなくなってくる。幾度目かの拳。俺は防御できず腹部にもろに受けてしまう。


「が……」


息ができない。


苦しい。


ここまでの相手は久しぶりだ。


久しぶりだからこそ……


俺は吐きそうな腹を殴りつけて呼吸をしながら立ち上がる。ぶれる目の前を正すように頬も叩く。震える足を叩き、拳を構える。


「お、やっと本気の構えだね。」


「あぁ、やっと本気だ。行くぞ。」


待ち構える長谷に対して俺はまっすぐに突っ込む。間合いに入ると俺は長谷がカウンターの準備をしていることに足を止めてコンマ一秒差までスピードを抑えて拳を打つ。その攻撃法を見て幼なじみ二人は苦い顔をする。


仏神掌拳ふつしんしょうけん須佐之男命スサノオノミコト


俺、いや、俺、帝、覇漸はざの学んでいる武術……仏神掌拳ふつしんしょうけん。中国武術由来の肉体修行法と日本武術由来の精神修行を融合させ、構えや技に仏や神に関したもので戦う武術である……戦わずして勝つをモットーにしている矛盾した武術でもある。その中の須佐之男命スサノオノミコトと言う技は普段は素早い動きで相手へ打ち込む技なのだが、今回は相手が相手なので体全体の筋肉が緩む隙を見て使った。長谷は俺を目の前にそのまま倒れた。


「あの長谷さんが……」


「嘘だろ……」


周りの不良たちはざわついているが、俺はそんな気にせず二人を連れて廃工場から出ていく。去り際、大きな声で他の奴にも聞こえるように言い放った。


「約束、守ってくださいね~」


三人で廃工場からでて帰り道、さすがにあの拳や蹴りは痛い。


「死ぬかと思った……」


「全く、道場の決まり破って技を使うなんて……」


「破門だな。」


「そうだよなぇ…」


「ま、言わんがな。」


「もちろん言いませんよ。私たち兄弟みたいなもんですからね。」


背筋に悪寒が走った。が、この悪寒も悪くはないな。


アイコトバ ハ 心・技・体/完


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