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第14話

「周りの仕切り部分が粉々に破壊されてんのに、何でジズさんの顔だけは無事なんだよ……」

「ホンマ、あない急に強攻撃してきたらさすがのワテかて吃驚しますさかい。姉さんもこれからは少し加減したってやぁ~」


 どうやら魔王というの名もあながち伊達ではないらしい。あれだけの衝撃と音にも関わらず、ジズさんの顔は傷一つ付いてはいなかったのだ。


「どんな原理を応用すれば、顔だけ綺麗に残るんだよ……」

「あ~たぶんですが、こう顔の正面にこのモーニングスターの鉄球が勢い良く当たり、その衝撃が周りに均等に伝わることで、玄関周りの仕切り部分である木々だけが破壊され、その衝撃を吸収し顔だけが一切のダメージ無く、無事に残ったのではないかと思われます」


 そんな俺のボヤキが聞こえたのか、シズネさんはそんな補足説明をしてくれた。


 ま、要するに『考えたら負けの世界法則』と言いたいのだろう。じゃないと説明がつかない。だがこれで肝心要の案件、玄関周りの仕切りが破壊されてことにより、どうにか顔を引き抜けることができるだろう。


「ま、これで顔が外れるなら……って、んっ? ジズさん?」

「……あ~、いやな……これでも外まへんねん」


 だがしかし、これでもまだ顔は外れないようだ。


「はっ? いやいやいや、何でだよっ!? 顔周りの邪魔なの取っ払ったんだから、簡単に抜けるだろ!?」

「ワテもそう思いましたねん。そやけどな、顔を前に突き出したら、まだ引っ掛かりましたんのや。兄さん……すんまへん」

「(何でせっかく外れたってのに、また顔を前に突き出して引っ掛けるような真似しやがるんだよ、このクソドラゴンは……マジでめんどくせぇ)」


 どうやらジズさんは玄関から離れるのが名残惜しいのか、先程よりも顔を店の中に押し込め、再び引っ掛かっているとの事。……もはやただの馬鹿野郎クソドラゴンだった。


「ちっ……あっ、ならこの最後に一口分残ったナポリタンで、どうにかしましょうかね♪」

「……それ、まだ残って嫌がったのかよ」


 シズネさんは軽く舌打ちをすると、先程の残りだという既に冷めきった鉄皿に残されたナポリタンを手に取ると、またまた魔法の杖ワンドの柄の部分に巻きつけ始めている。


「ヒィィィィッ。姉さん、それだけは勘弁してぇ~な。そんな本場ナポリですら料理として認識されていない、今話題沸騰中のナポリタンやないですか。しかもトマトには毒があるんでっしゃろ? そんなワテは食べまへんで!!」

「いや、それ冒頭で山賊の頭だかが言ってたセリフまんまじゃねぇかよ。何でまた会話繰り返しセリフループさせてんだよ……」

(作者の野郎め、いつもの如く文字数稼ぎを……いや、もう拒否セリフを考えるのが面倒になり、手抜きに走ったのかもしれんぞ!)


 ジズさんは小者チックな軽い悲鳴とともに、イートイン・ナポリタンを拒絶していた。


「まま……コイツを食いやがれぇぇぇっ!!」


 このままでは埒が明かないと思ったのか、シズネさんはまるでレイピアの如く鋭い突きをみせるとジズさんの口に向け、ナポリタンが絡んでいるワンドを強引に捻じ込んでいた。


「ぐほっ……もぐもぐ……冷めてもウマーッッ!!」


 ガゴッ……ガラガラ。どうやらこのナポリタンは冷めても美味しいらしい。そしてそのあまりの美味しさにジズさんが「ウマーッッ!!」のセリフに合わせ後ろに退くと、ようやく玄関から顔が抜けた模様である。


「あっ……」


 だがあまりにも後退する勢いがありすぎたのか、ジズさんは何かを察したようなマヌケな一言と共に、このレストランの反対側にあったレストランへと背中から倒れこんでしまった。


 ドッカーン!!

 そんな破壊とも崩落とれる音が、反対側にいる俺達の方まで聞こえてきていた。


「いやいやいや、なんだよアレは一体!? ってか、ジズさん大丈夫なのかよ!! あとあと、向こう側にあったレストラン潰れちまったぞ!?」

「あっ、兄さん。ワテなら全然大丈夫でっせぇ~♪ 心配ご無用ですわ~」


 ガッシャン、ガラガラ。ガッシャン、ガラガラ。ジズさんはまるで俺の心配声に反応するように、亀が裏返しになったように羽やら手やらを激しくバタつかせもがきながらも応えてくれた。


 だがそれらの行動は更に反対側のレストランを容赦なく、また二度と復旧させられないほど破壊する行為にも思えてしまう。


「あっよいっしょ、っと」


 ガチャン……カチャリッ。あれだけの事件があったというのに、俺の妻であるクソメイドは最初からこうなる事を想定してのか、玄関脇に立てかけてあったドア(たぶん予備のドア?)を持つと、ジズさんにより隙間が空いた玄関へと2つドアを填め込み、そして最後には丁寧に鍵までかけてしまった。

 だがそのドアはただ適当に立て置いただけなので、ドア周りはスッカスカに隙間が空いているため心地よいほど風が店の中まで入ってきている。


「ふぅ~っ。ようやく商売敵の向かいのレストランを文字通り潰しましたね。これでこの街の飲食店レストランはウチだけになりましたよ。くくくっ……これからこの街に住む住人は愚か、冒険者達もウチで食事をする他ならなくなりましたね。これらすべてはワタシの計算どおりなのですよ!!」

「……最初からコレが目的だったのかよ」


 俺は今更ながらに恐怖ナポリタンの真の意図を思い知らされ、また妻であるシズネさんのカネに対する執念に恐怖を覚えてしまうのだった……。



 常にすべての事柄を伏線へと変貌させつつ、第14話へつづく

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