(そもそも何だよ『魔法のハンマー』って? しかも装備されてるって……いや、シズネさんは元魔王様なんだから、別にそういうの持っていてもおかしくはないのかな?)
俺はどうにかこうにか、「シズネさんって、元魔王様だから……」っと、この物語究極のご都合主義理論を再構築して、納得しようと思った。
「…………」
思ったのだったが、いざその魔法のハンマーとやらを目の当たりにして、不安は確信へと華々しくも昇華してしまうのだった。
「あっよいしょ、っと」
ガッシャーン!! シズネさんが何もない空間に手を突っ込み、それを引き
「(あの武器どこから出したのか今の今までまでずっと疑問だったけど、あんな風に出してたのかよ……)」
俺は再確認する意味でも、シズネさんに声をかける。
「シズネさん……それが噂の何でも解決できるっていう、魔法のハンマーなの?」
「あっ、はい。そうですよー♪」
シズネさんは何食わぬ顔で、いつも通りの軽いノリでそう答えてくれた。どうやらあのモーニングスターが『魔法のハンマー』という名前らしい。
「じゃあ旦那様、私はちょっくら行ってきますんで……」
「へっ? い、行くってどこへ???」
ガン、ガン、ガン、ガンッ!!
シズネさんは俺の制止を待たずして『ルンルン♪』気分でスキップをしながらモーニングスターの重い鉄球を引き摺り、早々と玄関ドアから出て行ってしまった。何気に鉄球の重みと引き摺り回しによって、店の床にへこみやキズできてるのはいいのだろうか?
「……そもそもシズネさんは、どこ行ったんだよ?」
俺はそんなシズネさんの行き先を疑問に思い、今し方出て行ったばかりの玄関ドアを開け外をそっと覗こうとした、まさにそのとき!!
「あら、旦那様もどこかへお出かけなのですか?」
「シズネさん!? あっいや……その、別に用ってほどでは……」
(シズネさんもう帰って来やがったのかよ? 外で空気でも吸っていたのかな?)
俺はあまりにも早すぎるシズネさんの帰還に戸惑い、言葉を続けられなかった。
「まま……とりあえず誰かに見つかる前に、お早く店の中に入りましょうか♪」
シズネさんは「急げ急げ……」っと俺の背中を無理矢理押しながら店内へと誘導する。
ガチャン、カチャリッ。そしてすぐさまスッカスカに隙間があるもはやドアの
「一体何なんだよぉ~~~って!! シズネさん、それはなんだよ!?」
俺はシズネさんが持っているモーニングスターの鉄球部分を見て、驚きを隠せなかった。
何故ならそこには、重くトゲトゲの付いた鉄球部分に先程まで付いていなかった、赤い液状のねっとりとしたモノが大量にこびり付いていたのだ。
「えっ? ああ、これはその……ナポリタン用の
「そ、そうなんだ……」
(自分で言っていて、何で最後だけが疑問系なんだよ? あと絶対それってケチャップじゃねぇだろうが……。いや、むしろそれケチャップの方が
俺は固い笑顔をしたまま、そんな斬新な自動ケチャップ製造機を目にするのは初めてのことだったので、酷く戸惑ってしまう。それにたぶんその赤いのは、『ケチャップ』などではなく、別の
俺の固い表情から何かを察したのか、シズネさんは深く頷くとこんな言葉を口にした。
「ああ、そうですよねぇ~。使用済みのモーニングスターを店の中に入れたら、
カチャッ、ブーン。ガンッ、ガラガラガラガラーーッ。
そう言ってシズネさんは玄関ドアの鍵を開け、使用済みモーニングスターを店の外へとぶん投げると、店の反対側にあるギルド直営レストランまで、その真っ赤に染まった鉄球が転がり、華麗なまで容易に証拠隠滅してしまったようだ。
「ふぅーっ。これですべては無かったことになりますよね!」
「……ほんとかよ」
シズネさんは「私一仕事終えましたよ~♪」という感じの満載の笑顔となり、それを傍目に見ていた俺は吐き捨てるようにボソリっと苦言を呟いてしまう。
「ちなみになんだけどさ、シズネさんはさっき外へ何しに行ってきたの? わりかし早く戻って来たよね? 一体どこに……」
俺はやんわりと出来事の概要を聞きだすことにした。でなければ、俺のガラスにも劣る
「あ~、別にちょっとした用事ですので、あまりお気になさらなくても……ま、そう言ったらやはり旦那様も気になっちゃいますよね? 実はですね、先程は敵方のギルドに行って来たんですよ」
「はっ? ギルドに行って来たの!? 一人で!?」
俺は意外なまでの言葉を聞いてしまい、目をパンダも真っ青なくらい白と黒交互に点滅させてしまうのだった。
「ええ、それで目に入るギルド連中を『魔法のハンマー』で、とにかく手当り次第に撲殺……いえ、
シズネさんは自らの発言を肯定するかのように相槌を打ちながら、ギルドとの話し合いの内容を教えてくれた。ってか語ってくれた。
「……よ、良かったねぇ~、シズネさん。ギルドとの問題が解決しちゃってさ」
「ええ♪ ま、ワタシにかかればこのような案件なぞ、赤子の手を捻るようなものなのですよ(笑)」
どうやら斬新な自動ケチャップ製造機は、ギルド共の犠牲によって成り立つらしい。そして俺が一番懸念したギルドとの問題も、一応は解決したのかもしれない。
やはり人間平和的話し合いが一番ですよね~、などとお茶を濁しながら鉄球に付いた真っ赤な液体には一切触れずに第17話へつづく