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第24話

「ま、代金についてはこんな感じですね。あとはそうですね~、お客が来たら注文オーダーを取り、それを厨房に通し出来上がった料理を運んだり、お客が帰った後のテーブルを片付けたりなどが接客の主な業務でしょうかね。アマネには接客専属でお願いしますね!」

「おっ! 私は接客専属なのか……そうか……」


 シズネさんが接客業務について簡単に説明すると、アマネは噛み締めるように自分の役割を呟いた。


「もきゅもきゅ」


 もきゅ子はシズネさんのスカートを引っ張りながら、「私は何するの~?」って可愛らしげに裾を引っ張っていた。

 それはまるで子供がお手伝いしたくて、存在感をアピールしているようにも思える。やはりそんな姿がとても愛らしい!!


「あっ、もきゅ子ですか? もきゅ子はそうですねぇ~……まず客が来たらその愛らしい笑顔を振りまき、そしてお客が帰りそうになったら「帰らないで……」っと潤んだ目をしながら、今のように客のズボンの裾をくいくい引っ張って座らせ、再び注文するように仕向ける係りですね。ま、後は食べ終わった食器を運んでもらえば、ありがたいですねぇ~」

「もきゅ!」


 シズネさんはもきゅ子の仕事内容を教え、またもきゅ子も「分かったよ~」っと右手で敬礼して返事をしていた。


「(もきゅ子ってそんなあざとい役割やらされるのかよ……。いやまぁピッタリのお仕事役割なんだけどね)」


 横で説明を聞いていた俺も渋々ながら、「それも仕方ないか……」っと頷き納得する。


「それで旦那様は基本的に料理を作ってもらいます。ま、いきなりというわけにはいかないので、最初は私の補助サポートをしながら仕事を覚えてもらいます」

「(ほっ)ああ、俺もそっちの方がありがたいね。さすがに勝手の分からない厨房で、いきなり料理なんてできないからね」


 シズネさんは料理人コックとして俺を起用したので、いきなり厨房すべて、そして料理全般を任されると思っていたのだが、どうやら仕事を覚えるまでは当面彼女の補助という役割らしい。俺もその方が都合良く、安堵しながら頷きその役割で了承した。


「もちろん補助ですので料理の作り方を覚えるのはもちろん、お皿を出したり、材料を切ったり、また食べ終わった食器などを洗ったり……などと雑務も兼任してもらいますがね。ああ、それともちろん時間があれば接客もやってもらいますよ」

「おっほぉ~♪ そりゃなんともハードなお仕事だこと……」


 どうやら料理人見習いだけでなく、その他の雑務も兼任させられるようだ。


「ま、それも始めの内だけですよ。旦那様お一人で料理が作れるようになれば、ワタシが補助サポートに回るようになりますから……ですので、早く仕事を覚えてくださいね!」

「へ~い」


 俺は軽い返事をしてそう答えた。


 実際料理はあまり得意ではないのだが、食っていくためには致し方ないことかもしれない。それに魔物と戦うわけではないのだ。「別に料理を作るだけだし、ダンジョンに潜りみたく命の危険があるわけではないだろう……」などと、このときまでは軽い気持ちで思っていた。ま、例の如く後々後悔することになるのだが、今は捨て置こう。


「じゃあ料理のお話はこの辺にして……あっ、そうだ! あとエールなどの飲み物も提供いたしますので……っと言ってもこのジョッキに注ぐだけなので、誰にでもできる簡単なことなんですがね(ただしもきゅ子を除く)」


 そう言ってシズネさんは樽近くに置かれていた透明なジョッキを手に持つと、コックを開き、そこにエールを注いで俺達に見せてくれた。


「うむ。それも私の役割なのだな? ちなみに何か注意点とかはあるのかな?」


 アマネは少し不安なのか、シズネさんにそんな質問をしていた。


「いえ、特には無いですね。一応この部分の下辺りまで注いで、あとは零さずに持っていくだけです。ですが見た目とは裏腹に液体を入れるとわりと重く、また零さぬよう持ち運ぶのには注意が必要になります。今は何の問題も無いように思えるかもですが、実際営業すればこの意味を理解できると思います」


 シズネさんは「どうせ今説明しても、てめえの足りない頭じゃ理解できないだろ? なら、実践でそれを思い知れ!!」っと言いたげにアマネにそう告げていた。


「あっ、これって木のジョッキじゃなくて厚手のガラスなんだね……」

「ええ、こちらの方が割高なのですが……ほら、こうして見るとなんだか美味しそうに見えませんかね?」


「ほんとだ。木のジョッキだとパッと見じゃ分からないけど、この透明なジョッキなら、今どこまでまで飲んだか判り易いし、美味しそうに見えるね!」

「そうでしょ? お客がこれを頼み、そして美味しそうに飲む姿を見れば、他のお客だって頼むはずです。ま、目先の利益を阻害しての言わば先行投資ですね。ゴクゴクゴク……ぷっはーっ♪」


 シズネさんはそう言って一息で飲み干してしまった。


「すっげぇー」


 その光景を見ていた俺は思わずそんな言葉を発してしまう。男なら飲めるだろうけれども、さすがに女性での一気飲みするとは思いもしなかった。


「っと。あっ、また空になったこのジョッキは、カネを払わない客に対する武器にもなりますので。例えばこんな感じです『えっ? お客様、代金が支払えない? じゃあ仕方ないですね……ガンッ!!』みたいな感じで、こうゴミ虫の脳天目掛け振り下ろし、撲殺するのがウチの店の決まりです!」


 ブンブン、ブンブン。シズネさんは空のジョッキ片手に重々しく空気を斬る音をさせながら、上下に素振りをしていた。それはなんだかまるで茶釜チックにも思えてしまう。


「そ、そっか。ウチの店じゃ、無銭飲食なんて絶対できないね。あっはははっ……」

(おい! この店、ほんとに大丈夫なのかよ?)


 俺はそんな百姓一揆にも勝るとも劣らぬ、傍若無人ぼうじゃくむじんなこの店の行く末を心配しながら、乾いた笑いを浮かべて相槌を打つ。


「あっ、ちなみに当面は作業の効率化問題オペレーションの簡略化と計算しやすさ重視で、料理はナポリタンのみ。そして飲み物はエール。代金はそれぞれ一品につき『2シルバー』としますから。これなら分かり易いですよね?」

「ああ、そうだな。値段は分かり易いのが一番だと思うし……アマネもそう思うだろ?」


 シズネさんは不慣れな俺達の為に品数を絞り、また値段も分かり易くしてくれたようだ。


「うむ! 計算の苦手な私でもそれならちゃんと間違えずに分かるぞ!!」

「もきゅ!」


 アマネも頷き、そして何故だかもきゅ子も共に右手を挙げ返事をしていた。


「ふふっ。あとナポリタンにはお水も無料・・で提供する事にしましょうね」

「えっ!? 水は無料にすんの? ほんとにいいのか、シズネさん?」


 俺はシズネさんのその言葉に酷く驚いてしまう。何故ならこの辺り……いや、この世界・・・・では水が貴重品であり、みんなカネを出して買う・・・・・・・・のが広く一般的なのだ。それをあの守銭奴民族のシズネさんがカネを貰わないで無料タダで提供するというのだから、驚かずにはいられない。


「うーむ。水を無料で……か。これはさすがに勇者である私も驚いたぞ!」

「きゅ~♪」


 アマネやもきゅ子も俺と同じく、その提案に対して心底驚きを隠せない様子である。


「(ってか、アマネよ。勇者具合は全然関係ないぞ……)」


「えぇ、えぇ。幸いこの店の裏手には自前の井戸があり、無料で提供しても何ら問題無いのです。それに……」

「それに?」


 シズネさんはそう言うと言葉を止め、意味深な溜め・・を作っている。


「それに……これはギルドから客を奪う『第段階の戦略』なんです」

「ギルドから客を奪う……だ、第二段階の戦略……ごくりっ」


 シズネさんのその言葉を聞き、俺はオウム返しに言葉を呟くと思わず息を呑んでしまった。


 きっと第一段階の戦略とは、向かいにあるレストランを潰したことを指すのかもしれない。また第二段階の戦略とは、たぶん『水の無料提供』のことだろう。


 先も述べたとおり街の住人に限らず、冒険者達も水をカネを出して買っているのだ。ここまで言えば既に察しが着くだろうがそれを売りつけ、そして販売しているのも『商業ギルド』共なのだ。これは何ともはや情けない話になるのだが、国には水源の大本を管理するだけの能力も、また資金も無く完全にギルドの言いなりになっていたのだ。


 よって商業ギルド共は国が管轄すべき『水源の大本』を自分達だけで抑えてしまい、本来ならば無料で提供されるべき・・・・・・・・・・水を販売しているのだ。それは俺達のように商売する者はもちろんのこと、一般家庭でも水を商業ギルドからカネを出して購入しなくてはならない。


 またそれと同時にギルドに反発する者、そのやり方に疑問を定義する者、ギルドに税金を納めない者などには、制裁として直接・・水を販売しないなどその権力を行使し、力を知らしめていた。だからレストランなどの飲食店では、水とはいえ料理同様に有料・・で提供されるのが普通である。


 それをシズネさんは無料提供することで、真正面から『商業ギルド』に喧嘩を売ろうとしていたのだった……。



 少しずつ突発的なコメディーの面白さだけでなく、物語ファンタジー自体の面白さまでも知らしめつつ、第24話へつづく 

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