諸侯が居並ぶ玉座の間。
彼の手の甲に当てられた額に、光が灯る。
他の誰よりも眩しい光が。
衆人の誰もが思った。この二人こそ、運命の――と。
けれども彼は言う。
「お前を
僅かに茶色味がかった黒髪。灰色の瞳。
雪のような白皙の肌に、均整の取れた長身。
女性であれば誰もが羨望の眼差しを送る、美しい王子。
しかし言葉の通り、彼女を見つめる王子の目は、氷河のように寒々しく痛々しかった。
ただ、そんな凍てつく目を向けられても、彼女は平然としている。何故なら彼女は、この目を知っていたからだ。
冷酷さとか、己の威を鼻にかけての尊大さとか、そういったものではない。
憎悪と怒りと悔しさ――。
彼女のよく知る、目だ。
「お前だけじゃない。この世の
やっぱり――と、彼女は確信する。
嘲ったり、冷たくあしらったりしたいわけではない。むしろ相手に対して優位に立ちたいとか冷たくしたいと思うなら、温室育ちな本当の愚か者でもない限り、わざわざこんな言葉を口にはしないからだ。
もし本当にそうしたいなら、ただ空気のように無視をすればいいだけ。
けれどもそうではないから、こんな暴言を口にしたのだ。
無視出来ないから――。
無視したくとも出来ないから、王子はむしろ己に言い聞かせるように、冷たい言葉を放ったのだ。
王子の瞳を真っ直ぐに見つめ返した彼女だけは、そんな彼の心を見透かしていた。
彼女の存在が強く刻まれているからこそ――。
その感情を何と呼ぶべきだろうか。
もしそれが、恋というものなら――。
だったらそれを、利用するだけ。
王子も、王も、親友でさえも、この国の全てを彼女は利用するだけだった。
全ては、己の目的のために。
彼女は思い出す。あの夜の出来事を。
あの夜に、彼女は全てを奪われた。
巨人とあの聖女に、何もかもを奪われたのだ。
だから彼女は心に決めた。
あの女を。
あの聖女を。
あの巨人を。
絶対に、許さない。
必ず、復讐してやるのだと。
そのためなら何だってする。何だって利用しよう。
そう。
この王子のように。
彼女は分かっていた。
王子も、自分と一緒だと。
王子が自分を見つめる感情。それは彼女を無視出来ないものと、無視とは無縁の激しい敵意の相反する二つ。
彼もまた、復讐者なのだ。
だったら答えは一つだ。
――貴方はあたしを認めなくたっていい。
でも、復讐したいという想いは同じはず。だったら、向ける敵意はあたしじゃないと彼女の目が語っていた。
――だってあたしは……
彼女は敵意を向ける王子に、微笑んだ。
――
――僕は
偽りの聖女と――憎しみの王子たち。
物語のはじまりは、その少し前に遡る――。