「じゃあ秋人君の席は後ろ側の……」
「いや、小春よ。秋人は我の隣の席にするぞ」
「ななななな、なっ! 雪那さんっ!? 腕、腕がっ!?」
雪那は何を思ったのか、ツカツカっと秋人に歩み寄るとその右腕を自信の胸元へと押し付け自分の席へと引っ張って行ってしまう。
「雪那さん、いくら我が主君である貴女でさえも、そのような願いを容易に聞き入れるわけにはいきません! これは担任の先生としてはもとより、一教諭として断じてそのようなワガママ……」
「これはお願いなどではない、我の“命令”であるぞっ!」
「なら、秋人君は雪那さんの隣でね♪」
「かるっ! 小春先生、ちょっと寝返るの早すぎませんかっ!? 貴女、先生ですよね? ね?」
「だってぇ~、主君である雪那さんにそう言われてしまっては参謀として首を縦に振るしかできませんから~。私も竹中の末裔として、血には逆らえません~」
小春は我関せずと、自分に被害が及ばぬよう秋人を人身御供としての生け贄に差し出して難を逃れるつもりらしい。
「むむっ。秋人は我の隣の席はそんなに嫌……なのか?」
「うっ」
雪那は秋人に拒絶されたと思い込み、目に涙を溜め今にも泣き出すかのように悲しい顔をしていた。
それを不覚にも秋人は綺麗であり、どこか可愛らしいと思ってしまい泣く泣く隣の席へと座ってしまう。
「うむ。よし心がけであるぞ秋人っ♪」
「……ですか」
先程の暗い顔とは打って変わり雪那は頬を綻ばせながら喜び、笑顔となっていた。
そしてふと秋人は左隣へと顔を向けてみると、これまた見知った顔がそこにはあり驚いてしまう。
「あれ? 貴女は今朝の……」
「はろはろ~。また逢ったわね」
手をヒラヒラ~っとさせながら軽い口調で挨拶をしてきたその女子生徒こそ、今朝方雪那と討ち合いをしていた美智である。
「美智さんが隣の席なんですね」
「ええ、そうよ。アナタがこうして隣に来てくれたおかげで、授業中も雪那と顔を突き合わせなくて済むわ。ありがと♪」
これも因縁とでも言うべきなのか、信長の末裔と光秀の末裔とが隣の席同士というある意味で腐れ縁とも取れるその間に、新参者の秋人が座ることになった。
美智は目を見張らんばかりの大きな胸をたゆん♪ っと両腕で持ち上げると、そう秋人へ微笑みかけてきた。
彼女本人としては腕を組んでいるつもりなのだろうが、奇しくもより大きな胸を強調することになっていると気づいてはいない。
「うっ……っっ(照)」
未だに美智は同姓だと思いそのように何気なくも胸を強調させたのかもしれないが、秋人としては気が気ではなかった。
少し腰を浮かせ背伸びをして上から覗き込めば強調された胸の谷間が顔を覗かせ、まるでそこだけ桃源郷が広がっているかのように思えてしまう。
「ん? どうしたの? そんな中腰になったりして」
「い、いえ……」
「そう? 何か困ったことがあったら私に相談しなさいね。何でも相談に乗ってあげるからね……ふぅーっ」
「あっひゃっ!? みみみみ、美智さん、何をしているんですか! 耳に、耳に息を吹きかけてくるだなんてっ!?」
秋人は突如として自分の耳に生暖かくもどこか女性特有の甘い香りが乗った息を吹きかけられ、変な声を上げてその場で飛び上がってしまう。
「ふふっ。その見た目どおり、可愛らしい反応をしてくれるわね。お姉さん、アナタのこと気に入っちゃったわ♪ ん~~っ」
「ちょ、ちょっと美智さんっ!? にゃにおっ!?」
美智は何故か秋人のことが気に入ったのか、彼の右腕を自らの谷間へと導くとそのまま抱き締めてしまった。
秋人は右腕から伝わる柔らかな感触と美智の温かな体温、それと女性特有の甘美な甘い匂いで頭がクラクラしてしまっていた。
「むっ! 美智よ、秋人は我の家来であるぞっ! そのように不埒な行い、主君として見過ごせぬっ!」
「あ~ら、これはこれは。織田のが、ま~たヒステリーを起こしているようね。いいでしょう、上等よ。その喧嘩、買って上げるわよ!」
ここが教室であるにも関わらず、二人は左腰に携えていた刀を鞘から引き抜いていた。
雪那は机の上へとよじ登り、美智は椅子に片足を乗せ、互いに今にも斬りかからんばかりの格好をしている。
「雪那さん、落ち着いてっ。み、美智さんも……って、ぶっ!!」
間に挟まれ、二人の争いを止めようとする秋人だったが、二人のあられもない格好をバッチリと両目で見てしまい思わず噴出してしまった。
秋人は二人に挟まれながら椅子に座っているため、ふと右側へと振り向けば机によじ登っている雪那の短いスカートから白い下着が真正面から顔を覗かせ視界を覆いつくし、対して逆の左側へと顔を振り向くと美智が左足片方を椅子へと乗せて、これまたピンク色の下着がガッツリっと秋人の目に入ってしまう。
(女の子の下着なんて初めてみちゃった。それも二人とも美少女と美人なお姉さんの下着をこんなにも近くで……っっ(照))
秋人は目の前に広がる夢のような桃源郷を目の当たりにして男性特有の生理現象のため、その場で立ち上がり二人を止めることができなくなっていた。
「んっ? 秋人よ、そなたのその膨らみを持ったものは何なのだ? 飛び道具の類であるか?」
「先が尖っているから、短刀の類なのかしら? もしかして仕込み刀?」
「いや、これはその、何でもなくて……っていうか、二人ともそんなに見つめないでよっ!!」
二人の興味が間で蹲り前屈みとなっている秋人へと向けられ、膨らんだ股間にあるものについて問いただしてくる。
さすがにそのモノについて自ら詳しく説明するのも恥ずかしく、また自分が男であると二人に知られれば持っている刀の刃を自分へと向けられ、首か膨らみを持っているものを殺ぎ落とされても何らおかしくはない。
そうして秋人がどう言い訳をしたらよいかと悩んでいると、小春がこんな助け舟を出してくれる。
「それはね、二人とも……秋人君にだけ備わっている伝家の宝刀なのよ!」
「伝家の……」
「……宝刀っ!?」
「はっ? こ、小春先生一体なにを言って……るっ」
秋人が口を挟もうとするのだが、小春はその唇に右の人差し指を押し付けそのまま黙らせてしまった。
「秋人よ、まっことそれはそなたの伝家の宝刀なのであるか?」
「まさか、そのような貴重なモノをこの目で見ることになるとは……」
「ふふふっ」
「っっ(照)」
雪那と美智は繁々と興味深そうに秋人の伝家の宝刀へと熱い視線を送り、何故か小春は自慢げに意味深な笑いを浮かべ、秋人はクラスメイトに見られていることにこの上ない恥ずかしさで居た堪れない気持ちになっていた。
「小春よ。そのような刀、一体どこにあったと言うのだ? まさか帝より預かりし、宝剣であるか?」
「あー……それはね、え~っとそのぉ~……そ、そうよ! 秋人君の体から直接生えているの! そしてその刀は鋭くも鋼に負けないほどに硬く、一度その刃を女性へと差し向ければ誰も彼もが逆らうことができなくなる……そんな剣?」
「「おおおおっ!」」
「ぶっ……そ、そんなに見ないでくださいぃぃぃぃぃぃっ」
雪那がその詳細について詳しく小春へと問いただすと、彼女はその場で思いついた限りの言葉を吐き出すと二人は関心するように歓声を上げている。
秋人は更に恥ずかしくなり、もうこの場から逃げ出したくなっていた。