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第3話 自己紹介

「そ、それで雪那さんと美智さん……でしたっけ? お二人はなんでいきなり刀で斬り合いを始めたんですか? それに何やら遺恨とか、過去がどうたらって言ってましたけど……」


 ようやく二人が落ち着き、普通に会話できるまでになっていたので秋人はその理由を問いただすことにした。

 でなければ、自分が男であると悟られてしまうとの防衛本能がそうさせたのかもしれない。


「ふむ? 何も不思議なことではない。我は織田の末裔、そしてこの美智は明智光秀の末裔である、これで戦わぬ理由がどこにある?」

「雪那の言うとおりですね。我々の先祖の名の元、刃を交えるのは必死。ただそれが遅いか早いかだけのことです。ま、最後に勝つのはわたくしなのですがね」

「むっ!」

「……なんですの?」

「まぁまぁ二人とも落ち着いて……」


 どうやら二人は遺恨を持っている武将の末裔同士なため、その名において相手を打ち負かそうとしているらしい。

 尤もそれも織田信長・明智光秀の両人の関係性ならば、致し方ないのかもしれない。


 明智光秀は織田信長の配下だったのに最後の最後には信長を裏切り、本能寺にて炎に包まれたまま自害へと追い込んだ張本人なのだ。

 その子孫であるならば、遺恨を持ってしまうのも頷けることだった。


「なるほど……最初から恨みというか、その土台があったわけなんですね。で、でも今はそれから400年以上経った21世紀なんですよ。それなのにその末裔達が争うだなんて……」

「貴公には関係ないことだ」

「貴女には関係ないことですわ」

「ぷっ……」


 仲が悪いと言いつつもほぼ同時に同じことを言っていたため、秋人は思わず吹いてしまった。

 それもそのはず、先程まで殺し合いをしていた二人がまるで双子の姉妹のようにしか見えなかったのだ。


「な、何を笑っておるか!」

「そ、そうですわよっ!」

「す、すみません。で、でも……ぷっくくっ」

「まったく……我らを笑うなど、貴公くらいなものだぞ。あっははははっ」

「ええ、まったくですわね……ふふふっ」


 笑われ怒っていた二人だったが今では秋人に釣られるよう笑い、そして笑顔を浮かべていた。


 キーンコーンカーンコーン♪ ちょうどそのとき、予鈴を知らせるチャイム音が響き渡る。


「おっと、このままでは遅刻してしまうな。学園の秩序を守る風紀委員として遅刻なぞ許されぬ。美智、今日のところは預けとしよう」

「……ですわね。私も興が殺がれてしまいましたわ」


 雪那も美智もまた学生として授業に遅刻するのはマズイなどと、急ぎ校舎へと向かおうとしていた。


「……あっ、ボクも職員室に行かないと」

「貴公、転入生であろうに? 一人で平気か?」

「あら、この方が転入生でしたの? でもそれは変ですわね……確か噂では男性であると聞いていまし……」

「あーっ! うんうん、ボクなら平気平気っ! それにほら、このパンフレットがあるから職員室まで自分一人で辿り着けます。お二人もボクには構わず遅刻しないようにしてくださいっ!」


 秋人は慌ててそう言い繕うとカバンから折りたたまれた学園案内のパンフレットをこれ妙がしに二人の前へと突き出し、早口で捲くし立てた。


「そ、そうか? すまないな、では再びこうして逢えると良いな……さらばである!」

「それではまたですわ」

「はははは…………はぁ~あっ」


 二人は遅刻せまいと校舎へと駆けて行った。一人残された秋人は手を振り二人の後姿を見ながら見送る。

 こうしてどうにか秋人が男であると、この場を凌げ秋人は溜め息交じりのまま職員室へと向かって行くのだった。


***


「それでは今日から貴方のクラスはこの2-A……通称『織田藩』になります」

「は、はぁ。クラス名まで藩の名なんですね……」


 秋人はあれから職員室に向かうと今か今かと待ち侘びていた担任教師である竹中小春から簡単な説明を受けると、これから1年間を共に過ごすクラスへと案内をされた。

 もちろん小春も教諭という立場でありながら、竹中重治たけなかしげはるの末裔であった。また雪那や美智同様、小春も左腰には長い刀を携えていたのだ。


「あの先生。一つだけ質問があるのですが……」

「なぁ~に? 秋人君からの質問なら、小春何でも答えちゃう♪ スリーサイズ? そ・れ・と・も、夜の性感た……」

「ちちちち、違いますよ!? ボクが聞きたいのは、ここって刀というか校内で帯刀してても大丈夫なんですかってことですよ!!」

「なぁ~んだ、残念っ」


 秋人は少し照れながらも小春の左腰に目を向け、そのような質問をした。


「これのことね? もちろん、OKです♪ だって私達は武将の末裔だからね。これが無いと誰が誰だか判りませんもの。そ・れ・に、ここでは自分の身は自分で守らないと♪」

「そ、そうなんですか……自分の身は自分で……あっははははは」

(まさかまさか、本当に校舎内でさっきのような乱闘というか、殺し合いが日常茶飯事とかじゃないよね? ね?)


 よく分からない屁理屈で小春に誤魔化されてしまい、秋人は考えるのを止め乾いた笑いのままどうにか頷くことしかできなかった。

 でなければ「自分の身は自分で守る」という言葉によって心が、そして常識が持たないと思ったのだ。


「はぁ~い、みなさ~んおはようございます♪ 今日は念願だった転入生を紹介しますよ~♪ さぁ入って入って」

「し、失礼、します……ぅっ!?」


 小春に導かれるように教室の中へと入っていった秋人だったが、クラスメイト全員から向けられる好奇な視線に思わずたじろいでしまう。


「アレが噂の?」

「ええ、そのようですわね」

「でも男ではなく、女の子のようですが……」


 好奇な目だけでは収まらず、秋人を目にしたクラスメイト達のひそひそ声が耳へと届けられてしまう。


(ぅぅっ……見られてる。しかも男として見られていないし……)


 秋人は羞恥の最中、どうにか教壇まで辿り着き、そして恥ずかしさで俯いたまま。


「それではまず、自己紹介からどうぞ」

「は、はいっ。あ、あのボクは……白鷺あき……」

「うん? 貴公は……おおっ、よもや余のクラスの転入生であったか!」

「……へっ? あっ、さ、さっきの……雪那……さん」


 名前を告げようとしたその瞬間、クラスの真ん中の席から聞き覚えのある声が聞こえてきたので秋人は思わず顔を上げてみると、そこには雪那が居たのだった。

 見知った顔と声でどこか安心したのも束の間、先程のことを思い出してしまい秋人は顔を真っ青にしてしまう。


(マズーイ。これはまずいよね? だってだって雪那さん、ボクのこと女の子だと思ってたんだもん。それがクラスメイトで男だって知られちゃったら……あわわわわわ)


 秋人は斬り捨て御免されるのではないかとの恐怖心から足を、そして膝を震わせ、まるで生まれたての小鹿のようにプルプルと震えてしまっていた。


「無事、職員室へと辿り着いたのだな! よきかなよきかな」

「あっははは……そ、その節はお世話になりました」

「んっ? だが、時に担任の小春よ。転入生は男ではなかったのか? 秋人はどう見ても女にしか見えぬのだが、我の聞き間違いだったのであろうか?」


 雪那は満足そうに頷きながらも、転入生の性別について担任の小春へと問いかけていた。

 秋人はマズイ……と思いながらも、どうすることもできずに居ると小春は笑いながらこんなことを口にする。


「え~っ? あ~っ……あっはははははっ。雪那さんは勘違いしていますよ」

「うん? 勘違い、とな?」

「ええ、秋人さんはこう見えても男……いえ、いわゆる男のおとこのこさんなんですよっ!」

「なあっ!? 小春先生、一体何を言って……ち、ちがっ……あっ……ゆ、雪那さ……ん」

「男の……娘……だと?」


 見れば雪那は体を震わせながら、秋人を見ていた。

 そう中性男子とも呼ばれる男の娘は何を言うとも男なのである! よって今朝方、秋人が雪那と美智の胸を揉んだことが問題となってしまうかのように思えたのだが……。


「うむ……。一瞬、男と聞き心配したが男の娘であるならば何も問題はあるまいに。秋人よ、よくぞ我がクラスへと参った! 褒めてつかわぞ! あっはっはっはっは」

「はははは……はっ……」

(雪那さん、それでいいの? 男でなければノーカンなの? ボクが男の娘ならセーフティ判断になっちゃうの?)


 雪那は大いに笑い声を上げながら、秋人を受け入れてくれた……それも“男”ではなく、“男の娘”として。

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