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デレ属性ヒロイン×5! よろず相談部は僕の手に負えません
デレ属性ヒロイン×5! よろず相談部は僕の手に負えません
ひより那
恋愛現代恋愛
2025年05月28日
公開日
4.1万字
連載中
お人好しが取り柄の高校生・来栖悠人は、廃部寸前の「よろず相談部」のたった一人の部員。 他人の感情に敏感すぎる《共感能力》のせいで日々気苦労が絶えなかった。 新学期早々、生徒会から突き付けられた廃部決定の通知! 回避の条件は「部員5名と活動実績」!? 頼れる幼馴染の紬、重すぎる愛情を向ける陽菜、クールビューティーなクラス委員長・澪、内気な小動物系女子・和奏、そして超絶お嬢様の麗華…… 個性も《Wデレ属性》もバラバラなヒロインたちと共に、悠人の前途多難な部活動が始まる! ドタバタだけど心温まる、学園ラブコメストーリー。 悠人と結ばれるのは……あなたと結ばれるのは……

第1話 よろず相談部と幼馴染とクールビューティー

 四月。新しい学年、新しいクラス。

 教室を満たす期待と不安が入り混じった、どこか浮ついた空気は、僕には少しだけ眩しすぎる。


 だからというわけじゃないけど、放課後、僕が真っ先に向かうのは、活気あふれる友達の輪ではなく、ひっそりと佇む旧校舎の片隅だ。


「……っと、今日も変わりなし、かな」


 ギィ、と錆びた蝶番ちょうつがいがきしむ音を立てて、古びたドアが開く。


 鼻をかすめるのは、埃っぽさと、微かなカビの匂い、それから陽だまりの匂い。ここが、僕が部長を務める『よろず相談部』の部室だ。


 部員は、僕、来栖くるす 悠人ゆうとただ一人。


 去年、卒業した先輩から半ば押し付けられる形で引き継いだ、名ばかりの部活。主な活動内容は、こうして誰も使わない部室の窓を開けて、空気を入れ替えることくらい。あとは、時々、目安箱に入っている(ほとんどがイタズラか、どうでもいい)手紙を確認するくらいか。


「んしょ……」


 窓を開けると、午後の柔らかな風が吹き込んできて、淀んだ空気を掻き混ぜていく。中庭の若葉わかばが目に優しい。

 雑然とした室内を見渡す。寄せ集めの机と椅子、壊れかけのロッカー、正体不明の段ボール箱。一応、最低限の掃除はしているつもりだけど、すぐに生活感……というか、廃墟感? が戻ってきてしまう。

 誰も来ない気楽さはあるけれど、やっぱり少しだけ寂しい。まあ、仕方ないか。僕自身、几帳面なタイプじゃないし。



「ゆーうとっ! やっぱりここにいた!」


 不意に、背後から底抜けに明るい声が飛んできた。勢いよく開かれたドアの音と一緒に。

 振り返ると、そこには、息を切らせるでもなく、快活な笑顔を浮かべた幼馴染の姿があった。


つむぎか。どうしたんだ、そんなに慌てて」

「慌ててないし! もう、悠人がさっさと教室からいなくなるのが悪いんでしょ!」


 桜井さくらい つむぎ。隣の家に住む、物心ついた時からの幼馴染。明るい茶色の髪を今日はポニーテールにしていて、それが彼女の元気な雰囲気にとてもよく似合っている。そばかすの散った頬を、ぷくりと膨らませるのが癖だ。


「悪いって言われても……特にクラスですることもなかったし」

「そういうとこ! もう少しクラスの子と交流しようとか思わないわけ?」

「うーん……」


 苦笑いしかできない。紬は昔からこうだ。僕のズボラというか、コミュ障気味なところを、母親みたいに(あるいは姉みたいに?)心配して、世話を焼いてくれる。

 正直、ありがたいと思っているけれど、同時に少しだけ申し訳なさも感じる。


「で、何か用事だった?」

「用事っていうか……はい、これ! 新学期そうそう、またプリント出し忘れるとこだったでしょ!」


 ビシッと音を立てそうな勢いで、紬が数枚のプリントを僕に突きつける。進路希望調査とか、健康診断の問診票とか、確かに机に入れっぱなしだった気がする。


「あ……助かるよ、紬。ありがとう」

「まったくもう……。悠人は私がいないとダメなんだから」


 口では呆れたように言いながらも、その声色や表情はどこか嬉しそうだ。……なんて感じるのは、僕の自惚れかもしれないけど。

 こういう紬の優しさに、僕は昔からずっと甘えてしまっている。


「で、ここ、本当に活動する気あるの? 『よろず相談部』」


 紬は、改めて部室の中を見回して、溜息をつく。


「あるかないかで言えば、あるけど……依頼が来ないことにはね」

「そりゃ、こんな古くて怪しげな部室じゃ、誰も寄り付かないって」

「否定はしないけど……」


 実際、去年一年間でまともな依頼は数えるほどしかなかった。内容は「失くした生徒手帳を探してほしい」とか、「猫の餌やり当番を代わってほしい」とか、そんな他愛もないものばかり。

 それでも、頼ってきた子の、少しでもほっとしたような顔を見ると、この部を続けている意味も、まあ、なくはないのかな、なんて思ったりもする。


「それにしても、なんで悠人が部長なんか引き受けちゃったかなあ……」

「断れなかったんだよ。先輩の圧がすごくて……」

「またそれ! 悠人のお人好しも大概にしなさいよねっ」


 紬が、僕の二の腕あたりを軽く叩く。痛くはないけど、彼女の心配する気持ちが伝わってくるようで、少しだけ胸が温かくなる。


 その時だった。


「……失礼します」


 静かだけど、凛とした声が、部室の入り口から聞こえた。


 僕と紬が同時にそちらを向くと、ドアの前に一人の女子生徒が立っていた。

 息を呑むほど整った顔立ち。艶やかな黒髪のロングストレートが、午後の光を吸い込んで静かに輝いている。透き通るように白い肌と、理知的な光を宿した切れ長の青い瞳。表情はほとんどなく、まるで精巧な人形のようだ、なんて非現実的なことを考えてしまった。


 制服は完璧に着こなされ、その立ち姿からは一分の隙も感じられない。

 同じクラスの、氷川ひかわ みおさん。成績は常に学年トップクラスで、クラス委員長も務める才女。……そして、あまり他人と馴れ合わない、クールビューティーとして有名だ。


「ひ、氷川さん? どうかしたの、こんなところに」


 思わず、少し上擦った声が出てしまう。まさか彼女が、この忘れ去られたような部室に何の用だろうか。

 氷川さんは、僕と、僕の隣にいる紬を順番に、値踏みするような冷たい視線で見つめた。その青い瞳に見据えられると、なんだか心の中まで見透かされているような気分になる。


「あなたが、この『よろず相談部』の部長、来栖悠人さん、ですね?」

「は、はい、そうですけど……」

「生徒会役員として、通達があって来ました」


 彼女は抑揚のない声で、淡々と告げる。

 通達、という言葉に、嫌な予感が胸をよぎった。


「この部は、今年度末をもって、廃部となることが決定しました」


 氷川さんの静かな宣告が、古びた部室に響き渡った。

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