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第6話

 キッチンテーブルを挟んで彼と向かい合った。彼は器用そうに生野菜を切っていく。私はベーコンを細かく刻んだ。横のレンジでは卵がゆだっている。

 バターもマスタードもケチャップもある。マスタードの瓶に手を伸ばしたとき、温かいものに触れた。すぐにノアの手だと察知して慌ててひっこめる。

「おさきにどうぞ」

 彼は涼しい顔をしている。私はマスタードを先に使った。

 何となく気まずくて、テーブルを離れコーヒーメーカーの方に移動する。砕いた粉を盛ってスイッチを入れる。じゅうっと蒸気が立って、香ばしいコクのある香りが辺りに満ちた。

 ふと、自分のふだん飲んでいる銘柄でないことに気づく。

「あ、用意してくれてたんだね、僕の好きなコーヒー」

 うれしそうにノアが言う。私は口を閉ざすしかなかった。

 いつのまにこのコーヒーを買い込んでいたのだろう。

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