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第9話

 オリヴィアの店の仕事は、今日はとても忙しかった。近々開かれる若い男性デザイナーの個展のためだ。私は時折メモを見て確かめながら、自分の仕事をした。必要なインテリアのレンタルやその搬入。花束の予約の連絡。その他こまごましたこと。

 途中で、テイラーさんが来た。テイラーさんが来ることはメモしてあったし、私も覚えていた。彼女は目をかけているデザイナーのために、万事抜けがないかをオリヴィアと一緒になってチェックした。さんざん細かい注文をしたうえで、満足して帰っていった。今日は白いワンピースで、薔薇のレースが施されていた。

 オリヴィアはきびきびと業者にも指示を出し、忙しい中にも心地よい緊張感があった。おかげで朝からしていた仕事は昼過ぎには終わってしまった。

 「お昼を食べに行こうか」とのオリヴィアの誘いを受けて、私はメモ用紙を繰った後、メールをチェックした。

 『○○街のいつもの店で待つ──ノア・エヴァンズ』

 誰だろう。それに「いつもの店」とはどこだろう。

 私には分からなかった。

 眉根を寄せる私を見てオリヴィアが覗きこんだ。

「あら、デートのお誘いがあったのね。知ってたら、もっと早くにあなただけ帰したのに」

 心臓がつかまれたようだ。私はオリヴィアに尋ねた。

「オリヴィア、ノアという人を知っているのね。いつもの店ってどこなの」

 案外オリヴィアは驚かなかった。何ともいえず優しい笑みを見せた。

「ジェシカ。ノアはね、以前はよくこの店にも来ていたわよ。あなたに会いに。そして連れ立って一緒に帰っていたわ。私はお邪魔だからいつも遠慮していたけど、ときどき一緒に食事や飲みに誘われた。その店のことね、きっと」

 オリヴィアの口調から、ノアという人が不審な人物ではないことが分かって安堵した。しかも、もしかしたら、私の……。

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