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第7話

 しかも明日は、大事な会議がある。


 こういう時に限って、人というのは眠れないものだ。


 いや、きっと今日、聖修に出会わなければ眠れたのかもしれない。そして今ごろは、夢の中だったのだろう。


 今日、何度目かのため息を漏らす俺。


 時計に視線を向けると、すでに午前二時を回っていた。今日の俺は、一体どれだけベッドの上でゴロゴロしているのだろうか。確か、ベッドに入ったのは零時を少し過ぎた頃だった気がする。


 しかも明日は六時には起きて、仕事に行かなければならないのに、未だに眠気が襲ってくる気配すらない。


 このままでは、目の下にクマをつくったまま出勤することになるかもしれない。もちろんそれは多少大げさな表現かもしれないが、本当に一睡もできなければ、そんな状態で出社する羽目になるのは十分にあり得る話だ。


 とりあえず瞼だけでも閉じてみるが、それが今の俺には逆効果だったらしい。


 瞼の裏に見えるのは、あの聖修だった。さっき会ったばかりの聖修の姿が、完全に俺の脳裏に焼きついてしまっているということなのだろう。だって、普通ならこんなこと、そうそう起こらないはずだから。


「うぉおお……寝れない……」


 もう、今日あったことは考えないようにしないと、本当に眠れない気がしてきた。


 これが十代のころなら、徹夜だって平気だったのかもしれない。でも二十代半ばにもなると、本当に徹夜はきつくなる。しかも明日は仕事がある。だから絶対に寝ないと、仕事に支障が出るに決まっている。


 俺は、普通のサラリーマンとして何年も働いてきた。二十代半ばともなれば、仕事にも慣れてきた頃だし、今まで大きな失敗もしていない。遅刻も、欠勤も、一度もない。


 本当に、今までずっと平凡な日常を生きてきた。ただ、それだけの人生。だからこそ、これからも何も起こらず、穏やかに過ごしていければと思っていた。


 だから──そんな俺が、隣に聖修が引っ越してきただけで、こんなにも動揺してしまっている。


 そうして、いろいろ考えているうちに──ようやく眠りにつけたのは、朝方だった。


 空がゆっくりと明るくなり、小鳥のさえずりが聞こえてくる。


 ……瞼の裏に光が射し、耳には小鳥の囀りが……。


 だが、その直後、目覚まし時計の音が部屋中に鳴り響いた。


 正直、一睡もできていなかった……ということだろう。


 このままでは、本当に仕事でミスをしてしまいそうだ。いや、下手をすれば、仕事中に居眠りしてしまうかもしれない。だからこそ、睡眠って本当に大事なのだ。


 ──だが、今日という日は、どうしても欠勤するわけにはいかなかった。大事な会議があるからだ。


 俺はそう思いながらも、結局眠気に勝てず、その後の記憶は完全に途切れていた。


 本当に、人間って「起きなきゃ」と思う時に限って、どうして眠ってしまうのだろうか。まさに今の俺が、その状態だった。


 さっきまで聖修のことを考えすぎて眠れなかったはずなのに、目覚ましが鳴ってから急に眠気が襲ってきて、そのまま落ちるように寝てしまった。たとえ、今日という日に大事な仕事があったとしても──。

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