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第13話

 再びため息を吐きながら部屋に戻ると、テーブルの上にはすっかり冷めてしまったウィンナーが置かれていた。


「あ……」


 聖修がここに来たことで、すっかり忘れていたことだった。


 ……ほんと、今日の俺って舞い上がりすぎだ。


 と反省する。いや、でも聖修が訪ねてきたんだから仕方ない! 一般人が有名人と話すとなったら、そりゃあ舞い上がって当然だろう。


 そう心の中で自分に言い聞かせ、ふと目の前のウィンナーを見て現実に引き戻された俺は、


「とりあえず、チンだな……」


 そうつぶやいて、冷めてしまったウィンナーを電子レンジで温め直す。今の時代、便利な電子レンジがあるんだから。ちなみにウィンナーをチンするときは、あらかじめ穴を開けておくのが鉄則だ。でないと破裂して、熱い思いをする羽目になる。


 温まるのを待っている間、椅子に腰を下ろし、またため息をついた。


 昨日も今日も、聖修が隣にいるというのに、まともに話すことができなかった。自己嫌悪に陥る。


 ……いやいやいや、これが普通だろ!


 と、自分に思わずツッコミを入れる。


 有名人を目の前にして、それもファンとして見てきた存在を前にして、言葉がうまく出てこないのは当然のことだ。


 頭を抱えてテーブルに突っ伏していると、電子レンジ特有の「チン」という音が部屋に響いた。


 その音にさえ、今の俺はびくっと体を震わせてしまう。


「あー、びっくりしたー!」


 そう言いながら、ゆっくり立ち上がり、温め直したウィンナーを再びテーブルに置く。


 そしてそれを口に運ぶ俺。


 俺は女子みたいに、落ち込んだからって食事が喉を通らないタイプじゃない。


 食べるときは食べておかないと、体力が落ちて余計にダメになるってわかってるから。だから今は落ち込んでる場合じゃない。とにかく食べるんだ。


 だから、ここ数年、風邪ひとつ引いたことがない。


 そのおかげかどうかはわからないけど、会社だって無遅刻無欠勤。


 ……健康が俺の取り柄だったのかもしれない。でも、その俺が、聖修が隣に引っ越してきただけで、こんなに精神的に……いやいや、これは聖修のせいじゃない。


 うーん、でも、聖修が隣に来たから、俺の生活が乱れてきたような……いや違う、そうじゃない。ああ、もう! 何も考えたくない! いや、考えるなって言っても無理だって……。


 聖修のことを考えるのは、もうやめよう。いつまでも引きずってたらダメだ。


 とはいえ、今日は確実に聖修が隣に引っ越してきたせいで、夜も眠れず、会社を休んでしまったのも事実。……いや、違う、聖修のせいだなんて思いたくないんだ。俺にとっては、聖修に責任を押し付けたくないっていうのが本音だ。


 さて、平日のこの時間、今日は何をしようか?


 いつものように、聖修の出ているDVDでも見ながら、のんびり過ごすか。


 それが俺の、休日の楽しみなんだから。


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