農業と職人文化の改革に成功したエミー・フォールブックは、次に教育の整備に目を向けた。領地を豊かにするには、未来を担う子どもたちへの投資が欠かせない。視察で聞いた住民たちの「読み書きができない」「算術がわからない」という切実な声を胸に、彼女は行動を起こした。

1. 教育の重要性を説く

エミーは、まず父である公爵や領地の文官たちに、教育整備の必要性を説くことから始めた。執務室で開かれた会議では、教育という概念がこれまで重要視されてこなかったこともあり、一部の文官たちから反対の声が上がった。

「お嬢様、教育を整えると言っても、それにかかる費用や時間を考えると、現実的ではありません。」

最年長の文官ベネットが苦い顔で言った。

「領地の経済がやっと回り始めたばかりです。その資金を教育に割くのはリスクが大きすぎます。」

しかし、エミーは怯むことなく答えた。

「教育は未来への投資です。今、子どもたちに学ぶ場を提供しなければ、この領地の発展は止まってしまいます。」

彼女はさらに、教育がもたらす長期的な効果を説明した。

「読み書きや算術を学んだ子どもたちは、より効率的に仕事をこなし、新しいアイデアを生み出せるようになります。それは結果的に、領地全体の成長に繋がります。」

その熱意に、公爵は静かにうなずいた。

「エミーがここまで考えているのなら、一度やらせてみようではないか。」

2. 学校設立の準備

公爵の後押しを得たエミーは、すぐに学校設立の準備を始めた。学校は領地の中心に設けられることになり、子どもたちが通いやすい場所に建設する計画が進められた。

エミーは自ら設計図を手に取り、教師の配置や教材の準備について考えた。

「まずは読み書きと算術を中心に教え、次に歴史や地理といった基本的な教科を取り入れましょう。そして、職人を目指す子どもたちには実践的な技術も教える場を作ります。」

彼女は隣町から教師を招き、子どもたちに教えるためのカリキュラムを組んだ。

「私たちの仕事はただ教えるだけではありません。子どもたちが学ぶ喜びを見つけられるようにすることが大切です。」

教師たちはエミーの情熱に胸を打たれ、全力で協力することを誓った。

3. 子どもたちとの出会い

学校が完成し、開校初日を迎えると、エミーは校門に立ち、登校してくる子どもたちを迎えた。子どもたちの顔には、期待と緊張が入り混じった表情が浮かんでいた。

ある男の子が、母親に手を引かれながら恐る恐る校門をくぐる様子を見て、エミーは微笑みながら声をかけた。

「おはよう。学校が楽しみかな？」

男の子は恥ずかしそうに頷いた後、小さな声で答えた。

「はい。でも、僕、字が書けないんです…。」

その言葉に、エミーは優しく答えた。

「それならなおさら、ここで一緒に学びましょう。きっとすぐに書けるようになりますよ。」

エミーの言葉に勇気をもらった男の子は、少しだけ自信を取り戻したように笑った。

授業が始まると、子どもたちは初めての学びに戸惑いながらも、一生懸命に板書を写したり、教師の指示に従ったりしていた。中には、早くも興味を示し、積極的に質問をする子どももいた。

4. 教育の広がり

学校が軌道に乗り始めると、教育の効果は次第に領地全体に広がり始めた。子どもたちが学ぶだけでなく、大人たちも夜間の識字教室に通うようになったのだ。

ある夜、エミーが学校を訪れると、ランプの明かりの下で大人たちが懸命に文字を書き写している姿が見えた。その中には農民や職人たちの顔もあった。

エミーはその一人に声をかけた。

「どうですか？学ぶのは楽しいですか？」

農民の男は少し照れくさそうに笑いながら答えた。

「ええ、最初は難しいと思いましたが、少しずつ読めるようになると楽しいですね。これで取引の記録も自分で付けられるようになります。」

その言葉に、エミーは改めて教育の力を実感した。学びが人々の生活を変え、未来への希望を生む――これこそが彼女が目指していたものだった。

5. 未来への投資

教育整備を通じて、エミーは領地の未来に明るい希望を見いだした。読み書きを覚えた子どもたちは、成長して新しい仕事に挑戦するようになり、算術を学んだ農民や職人たちは、効率よく作業を進められるようになった。

学校を卒業した少年ルカは、かつてエミーに語った夢を実現し、陶器職人として独立した。彼はエミーに自作の花瓶を手渡しながら、感謝の言葉を述べた。

「お嬢様が学校を作ってくださらなかったら、僕はここまで来られなかったと思います。本当にありがとうございます。」

エミーは花瓶を大切に抱えながら答えた。

「ルカが努力した結果よ。これからも頑張ってね。」

教育を受けた人々が、それぞれの場所で輝きを放ち始めた領地は、以前よりも明るく活気に満ちた場所になった。