後日談。
警察と氷永会、氷永会と創成川リバーサイドボーイズガールズ。とある若者バカ四人組が起点となって一触即発の危機になった今回の事件。犯人グループが安易に氷永会の一言を出しただけで、しかしそれがどれだけの意味を持つか全員が再認識した騒動だった。今回の抗争は未遂に終わった。とりあえず、それでよかったと今は思う。
成哉はタカに対して、組に一つ借りを作ることができたと喜んでいた。若者グループが動きやすくなると言っていた。タカは俺と成哉に頭を下げていた。俺はそんな姿は初めて見たし、そこまでのことをしたとは思っていなかったが、本人としては気が気でない立場だったのだろう。事実、やったことといえば車を特定し、キエンに教えてもらった掲示板に扇動の言葉を書いただけである。アンパンチで何メートルもすっ飛ばしたり、二度と喋りたくなくなるような尋問もしていない。どうしてもお礼がしたいっていうならさ、焼き肉に連れて行ってくれと言った。娘が食べたいって言うんだ。
※ ※ ※
程なくしてタカはある平日の日付を指定した。焼き肉を奢ってもらえるのだ。もちろん娘さんもいいよとのことだったので、妖刀使いと共に連れてきた。タカは顎が外れそうなくらい驚愕していた。
「おい、妖刀使いがなぜここにいる……どういうことだ」
「娘がこいつの刀を拾ってな。娘は妖刀使いの主人なんだよ。おかけで娘の子守りをよくしている。名前を桜木坂というらしい。なかなか
「おい、聞いていない」
「この妖刀使い、家事とか意外と何でもできるんだぜ。俺よりも親だ。忙しさを言い訳に家を空けるバカ親とは違う」
「でも、創くんはきちんとお父さんだよ?」
「おお、そうかそうか。泣かせてくれるな。今日はこのお兄さんが肉奢ってくれるからな。食べ放題の範囲で好きなだけ食えよ」
「はーい」
「御馳走になります」
桜木坂が頭を下げる。妖刀使いも焼き肉食べるんだな。タカにとって拍子抜けなのは、まあ、間違い無さそうだけど。
店に向かう足取りで、前を桜木坂と娘が手を繋いでるんるんで歩いている。その後ろを冬なのにコートを着ないで黒のスーツを決めた男と黒のダウンジャケットを着ている俺が歩く。
「ボスが感謝していたよ」
「正(ただし)さんが?」
「成哉と創にね。だから本当はあいつも一緒に呼んでさ、久しぶりに三人で飯食うのも悪くなかったんだけどな」
「それはないな。社長は、安い肉なんて食わないと思う」
「なっ……! 今日、予約したところはかなり高い、超高級焼肉だぞ」
「おお、そうかい。それは楽しみにしておくわ」
「おまえな……まあ、いいけど」
せっかくの焼き肉だし、少し積もった話でもするとしよう。この街のオーガナイザーとヤクザの幹部とで。高校の同級生というより友人として。巷で噂の妖刀使いも混ぜて。
長い長い冬は、まだ終わらない。春が来る前にまた新たな事件はやってくるのだ。きっとこの街はそれを歓迎するんだから、退屈しないよね。