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盗撮jkアイアンボトム01

「お願いです、彼女のために犯人を捕まえてください」



 四月末。ゴールデンウイークを間近に迎えた世間たちが、ざわざわとその時を楽しみに待っていた。俺は年中休みで年中仕事みたいなものだからあまり実感ないけど。


 リバーサイドガールズが俺の部屋を訪ねてきた。チャイムが鳴って扉を開けるとそこには美人が二人いたから、俺はついに宗教勧誘を引き当てたのだと思ったが、ガールズだった。片方は二十歳のガールズ。片方は十六歳の女子高生。うひゃあ、もう俺と彼女の間で干支が一周してるよ。若いっていいな。もう羨ましく思う年ではないけど。


 俺はふたりをおもてなしした。買いだめのペットボトルのお茶を出して。未開封だから安心してくれ。気の利いた紅茶とかを出せないのは心苦しいと、来客の度にいつも思ってるけど。


「それで? 今回のトラブルはどんなやつ?」


「茨戸さん。彼女が、名前を雪ちゃんと言うのですが、盗撮の被害に遭ったんです」


「盗撮? 電車とかでか?」


「いえ。占いです」


 占い? 占いってあの、占い師が水晶使って未来を当てたり、木の細いやつを束にしてじゃらじゃらしたり、タロットカードを使って運命を見るとかそういうやつか? トランプの数字とスートを当てるっていう……それはマジックか。


「占いって有料なの?」


 俺は無知ゆえにアホみたいな質問をしてしまった。想像したのは雑誌の特集コーナーに書いてあったり、「当たる! 有名占い師の天星術!」みたいな本とか、恋占いとか星座占いとかをテレビで見たりするようなモノだと思ったのだ。


「当たると有名な占い師さんだそうです。街の中心部の雑居ビルとかにあります。個室なので一対一で話を聞いてもらいながら、じっくりと過去未来現在を教えてくれます」


 なるほどね。そういうことか。コンカフェもキャバクラも個室でお話の指名料は高くつくものな。


「それで、盗撮っていうのは。その様子をカメラで撮られた、みたいな?」


「椅子の下に、机の下だと思います。そこにカメラが仕込まれていたんです。スカートの中が見えるように」


 なるほど。つまり「今なら特別に高校生限定で無料の占いキャンペーン中!」と待ち行く可愛い女の子に声をかけて勧誘し、個室で占いをしながらパンツを盗撮。有料動画や写真集にしてネットにばらまいて販売。大儲け。低級犯罪組織の匂いがする。


「どうして盗撮されたってわかったんだ? 占いの途中で気づいた?」


「いえ、そのときはまったくわからなくて。学校で男子が教室で、その、エッチな動画とか写真を見せ合っていたので注意したら、その動画が占いの店にそっくりで。見間違いだと、勘違いだと思ったんですけど、『リアルなのがいい』とか男子が言ったから気になって。調べたら内装とか占い師の見た目とか服装とかそっくりで。やっぱりあの店だったんじゃないかって」


「そうか。それは辛かったな。ちなみに、ふたりは知り合い? お友達とか?」


「はい。吉野さんとは絵画の教室が一緒なんです。吉野さんは美術大学に通っていて、教室で一番才能があるんです。私なんかはまだまだ勉強が足りなくて、でも私も美術大学に行きたくて」


「そうか。その言葉が言えるのなら、俺には雪さんに占いなんて必要ないって思っちゃうな。自分で未来が見えて、作ろうとしているんだ。それは誰にでもできることじゃないし、とても立派なことだよ」


 未来も将来も見出せずに、暴力だけの世界に住みついたバカばかりの世界に、俺はずっといたからな。素直に羨ましいよ。


「わかった。もちろん協力する。卑劣な大人たちをとっ捕まえてぼろ儲けした売り上げ金でも巻き上げてやろう」



 ※ ※ ※



 その日の夕方。テレビを見ながら北海道では有名なコンビニで買ってきたカツ丼を食べていると電話が鳴った。俺は飲み込んでから電話に出る。


「もしもし」


「創、俺だ。ちょっと頼まれてくれるか。急ぎなんだ」


 タカからだった。珍しい。そして同時に嫌だなと思った。ヤクザ絡みの問題とか、揉め事に巻き込まれるのは勘弁だぜ?


「実は俺の知り合いの弟が高校生なんだが、詐欺に遭ったらしい」


「詐欺? そんなのお前らがいつもやってるだろ」


「今回は俺たちじゃない。やったのはどっかの低級犯罪組織だろ」


 低級犯罪組織? それはつい最近聞いたワードだな。


「問題はその被害者高校生だ。詐欺をやったのが俺たちたと決めつけて爆弾を投げ込みやがった」


「ば、爆弾!? それでどうしたんだよ。爆発したのか?」


「いや、まだ。しかしおいそれと警察を呼ぶわけには行かない。ヤクザの本拠地に爆発物があるなんて知れば、またとないチャンスをサツに与えることになる。創は理系だったろ。なんとかしてくれ」


 そんな無茶苦茶な。理系って、高校生の時のことだろ。その後大学受験にも使わなかったから覚えてない。当然専門知識も資格もない。オーガナイザーは爆発物処理班ではない。


「無理だ。諦めて爆発して、お屋敷ごとお前も吹っ飛ぶんだな。何事かと警察が急いでやってくるぞ」


「無理だって。だから頼んでる。なんとかならないか。他に今すぐ頼めるやつがいない」


「いや、でも自分の家で夕飯食ってる途中だし、街に出るまで自転車を飛ばしても時間かかるぜ?」


「成哉のところのガキ、誰か使えないのか」


「あー、なるほど。それならお前が直接聞けばいいじゃない」


「あいつの電話はすぐに繋がらない」


「確かに。分かったよ、心当たりのあるやつに連絡してみる。だけど、俺も電話番号を知っているメンバーは少ないぞ。手配しているうちに間に合わなくて爆発した時には、それこそ諦めて警察のお世話になるんだな。そうなったらめちゃくちゃウケる」


「冗談じゃない。頼むぞ」


 俺はしかたなく半分ほど食べていたカツ丼に「ごめんね。すぐにまた食べるからね」と言って待たせ、あちこちに電話した。そのうちのひとりが少し知識があり、成哉の命令で解除した経験があると言った。俺はそのボーイズを現場に送り込んだ。氷永会のアジトは一般市民にも認知されている有名観光地。怖い人しかいなくて誰も見に行かないけど。あとは幸運を祈るばかり。爆発したら面白いのに。


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