俺はいつもの不定期で変わる番号に電話した。取り次ぎのガキが出たので「茨戸創だ。雁来成哉を出せ」と言ったらすぐに電話が変わった。俺の知名度が上がってきているのかもしれない。

「どうした」

「ガールズの盗撮の件は聞いてる？　ああ、そうか。さすが社長。そりゃ都合が良い。敵のアジトを見つけたんだ。でも確証がなくてな。そこで誰かメンバーを、そうだなガールズを貸してくれないか。占いとか分かるやつがいい。潜入したい」

「わかった。手配しよう」

「助かる。場所はビルの上の階で狭くて密室。ひとりで行動するにはちょっと危険だし、理由がつかないんだ。たとえるなら、ひとりカラオケするのに理由はいらないけど、どうせカラオケをするならもうひとりいたら楽しいだろうから、誰かいたら欲しいかなって感じ」

「ひとりカラオケするのか」

「いや、俺はヒトカラやったこと無い。お前らのメンバーと一緒に行くことはあるけど」

「ボーイズとお前は何を歌うんだ」

　え？　リーダー様はそういうの気になるの？　俺はこの間ボーイズが歌っていたアーティストの名前を出した。

「今のガキはそんな音楽を聴くのか。センスないな」

「キングなんとかの曲は今の若者で知らない奴いないんじゃないか。俺もよく知らないんだけど。カラオケ行くとよく流れている気がする。ヌーの王様だな」

「キングね……それは本当の王を知らないんじゃないか？」

「それはそうかも知れない。少なくともこの街の王はお前ひとりだし、その正体を知っているのは数人だ」

「お前もそのひとりか」

「もちろん。俺は王の右腕だからな」

「切るぞ。仕事しろ」

　電話を切られてしまった。やれやれ、照れ屋さんなんだから。

　俺はもっと情報を得るべく、時代遅れのスペックを誇る今となっては希少なパソコンを立ち上げ、インターネットに繋いだ。我らのグループ秘匿掲示板を呼び出し、情報を呼びかけたスレを確認した。そこで俺は驚くべき噂を目にしたのだが、あまりにも噂の域を出なかったので心にしまっておくことにした。

　※　※　※

　数日後。成哉に手配してもらったガールズの都合がついたとのことだったので、俺は彼女と落ち合った。そこで待っていたのは、この間の美術大学生ガールズ。まさか当事者を手配するとは。成哉は被害者だって分かった上で、わざと選んで彼女に出撃命令を下したのか。わざと俺のもとに送り込んだ。そうなのだろう。あの社長は無意味なことしない。

「俺がこれからやる仕事、分かっているか」

「はい」

「そのために君を使い、任務を成し遂げようと思っている。あまり人を駒のように、便利に使いたくはない主義なんだけど今回は状況が状況。簡単そうに見えて犠牲を伴う仕事だ」

「何でもします。私はそのためにここに来ました。全部分かっていて、成哉さんからの命令を受けて私はここにいます」

「そうか。じゃあ、俺からもいくつか命令する。作戦命令だ。いいか、場所は占い館、六芒星の煌めきだ。雑居ビルの三階で間取りは送った画像の通りとても狭い。いざとなったときに相手は何をするかわからない。証拠隠滅か、逃亡か。いずれにしてもこちらに情報がない以上不利だ。柔軟な対応が必要になる」

「はい」

「まず、占いを受けたいと店に伝え、客として入る。俺は付き人、カップルの男で一緒に来たと話す。この場合俺は待合室とか別室で待たされるのが普通なんだろうが、事前に手に入れた内装情報によると布で覆われた占いブースの後ろに椅子があり、そこに座らされるみたいだ。俺はそこで超小型カメラを使って店内を撮影する。カメラをカメラで撮影し、証拠を押さえる。もちろん占い中に座る椅子の下には相手の盗撮カメラがある。相手のカメラそのものを回収できれば一番いいが、データはクラウドに送られているに違いない。データを直接手に入れることはできないだろう。お金を出せば買えるかもしれないが、それでは奴らにクラウドファンディングしているようなもの。まずはコチラのカメラで向こうの悪事を押さえる。そこからだ。いいな」

「わかりました。手筈通りに」

「いまさら盗撮されるのが嫌とか言うなよ。できれば事件の当事者を作戦に使いたくはなかった。だから俺はわざわざ成哉にお願いして人を手配してもらったんだ。そうでなきゃ最初から一緒に敵を倒しに行こうと言っていたさ。被害側になるとさ、どれだけ理性的に冷静になっていても、どうしても作戦に対して情が入る。万が一の時に判断が鈍る。でも仕方ない。成哉の判断だ。信じよう。覚悟だけは忘れないように。相手はたぶん雑魚だが、雑魚は雑魚なりに知恵を回す。いいか、これはお前の下着をこちらから撮られることを許すためにやっているんじゃない。みすみす撮れ高を渡すわけじゃないということだけは、分かっているだろうけど分かっておけ。それ以上の撮れ高をこっちが撮る。実はこういうカメラには少し詳しくてな。期待していいぜ」

「お願いします」

「あと、雪だっけ。女子高校生。彼女の無念をさ、しっかり晴らして盗撮犯罪占い師から金を取ってやろうぜ」

「はい。よろしくお願いします」

　昼を挟んで、その午後に作戦を実行した。

「いらっしゃいませー」

「すいません、彼女に占いをお願いしたくて。俺は付き添いというか一緒に来てだけなんですけど、良いですか」

「ええ、もちろん。どうぞ、中へ。狭いところですが」

「お邪魔します」

「失礼します」

　情報通りの内装だった。俺はメガネにつけた複数のカメラのスイッチを入れて主に天井を撮影し始める。高感度であるため、見えないところまで見えるこのカメラは優秀なもの。相手の隠し小型カメラをすぐに見つけることができた。その様子は俺の電子画面時計で確認できる。便利ぃ。

　ガールズがブースに座って占いを受け始めた。俺も案内された椅子に座った。店の案内の人、布の向こう奥の占い師、その椅子の下に隠された本命の女の子のパンツ撮影カメラ。全てをカメラで撮影することは容易だった。うまくいきすぎて怖い。こういう時は何か見落としていることがいつもの俺。ちょっと前に拉致されてバットで殴られたのは良い思い出。

　占いが終わると俺たちは占い料金を払ってその場を後にした。必要経費だ。奴らには一銭もやりたくなかったが、やむを得まい。

　尾行や監視を警戒したが特になかった。占いの館から離れた人目が多い喫茶店で戦果を確認することにした。十分に周りを警戒しながら、ガールズから占いを受けていた所感を聞いた。

「最初は名前、生年月日、生まれた場所、好きな音楽、小説、漫画、言葉、色、黒と白どちらを選ぶかと聞かれました。それからタロットカードみたいなのがでてきて、私が選んだりシャッフルしたりめくったりして過去と今未来を占ってもらいました。結果はまあまあです。合っていると言えばそうだし、当てはまりそうな言葉を言われて当たっているこのように言っているようにも聞こえました。ブースをよく観察しました。茨戸さんからも見えていたと思いますが、布はとても厚く遮蔽に適していました。細工はないように見えました。机にはその天板の裏に何か機械が入っているように感じました。磁石みたいな、重たい感じの。重厚感があるだけで勘違いかもしれないですが。椅子の下の盗撮カメラに関しては分かっていても分かりませんでした。あれは気が付かないですよ。とても卑怯です」

「そうか。分かった、ありがとう。ひとつ聞いてもいいか。手のひらを広げて見せるように言われたり、手相を見ると言って手を机に広げて置いたりしなかったか」

「ええ。少しだけですけど、手相も見てました」

「そうか。わかった、ありがとう」

　それから俺は手に入れた成果を見せた。結果は言うまでもなく大収穫大成功である。あの路上でやっていた占い師は盗撮グループの一味で、あの占いの館は低級犯罪組織で間違いなかった。被害に遭った女子高校生の話もガセではなく事実だったし、その手口も情報通りだった。あとは問い詰めるか金の流れを特定して巻き上げるか。今回の目標としては金の出どころと行く先、つまり金を手にしている本当の悪者がいる組織本部を特定する。占いの館で手に入れた資金をまとめている場所があるはず。そこに現れた俺たちが流れている金を横取り。金銭的壊滅に追い込む。一度破滅しても悪人を殺したわけじゃない。盗撮事業で稼げ無くなったとわかると、すぐにまた違う稼ぎを探すだろうけど。

　とりあえず、そこまで達成できれば盗撮被害をひとつ減らすことに成功したのだ。この街からひとつ卑劣な犯罪を減らし、生き残った悪人の新たな犯罪を見守ることになる。

　さて、ここまでは下調べ。本当にやるべき秘密作戦はここから。ガールズは良い情報を持ってきてくれた。すぐさまボーイズに連絡してお願い。ひみつ道具を作ってもらった。平成の子供たちを楽しませたアドバンスな携帯ゲーム機を改造したひみつ道具。それを持って夜の敵地に忍び込むのだ。