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私の好きな先輩がコミュ症すぎる件について
私の好きな先輩がコミュ症すぎる件について
マカロー
恋愛スクールラブ
2025年05月28日
公開日
4.7万字
完結済
「ウブすぎて両片想い!? スポーツチャンバラと恋の真剣勝負、開幕!」 毒舌無口先輩×元気天然女子の、甘くて切なくて、ちょっとズレた青春ラブコメ、ここに幕を開ける—— 新学期、まるで太陽のように明るく、誰とでもすぐ仲良くなれる高校1年生・茉莉奈(まりな)。だけど、彼女の胸はいつも少しだけざわついていた。なぜならーー 毎日エアーソフト剣を握り、汗と礼儀が飛び交うこの場所で、茉莉奈は出会ってしまう。 ――それは、毒舌で無口、まるで冷たい氷のような藤井先輩。 誰もが「コミュ障」「何考えてるかわからない」と遠巻きにする彼だけど、どこか抜けているところがある。そんな不器用で繊細な彼の姿に、茉莉奈の胸は少しずつ、確かに熱くなっていった。 けれど、藤井先輩は言葉少なで素直になれず、茉莉奈は天然すぎて恋のサインを全く読み取れない。 すれ違う視線、焦れた沈黙、そして心の中だけで繰り返す“好き”の言葉。 この剣王会は、剣の戦いだけじゃなく、二人のウブな恋の真剣勝負の舞台でもあった——!

第1話 「恋じゃないって言ってるのに、心が追いつかない。」

「……この人、斬れる」


春の光が差し込む体育館の隅で、私は立ち尽くしていた。

ただ一本の、空気を裂くような剣筋を見て。

剣先は確かにエアーソフト剣――つまりスポンジ素材の剣なのに、

それでも私は“斬られた”気がしたのだ。


黒ジャージ、長めの前髪からのぞく切れ長の目。

音もなく動き、構えたその瞬間。

世界が、ピンと張り詰めた。


(……なに、この人)


剣王会のエース――藤井慧ふじい けい先輩。

その存在感は、ただ立っているだけで周囲の空気を変えるほど。


そして、私の入部の理由も……この人だった。


「えっ、スポーツチャンバラって、あのチャンバラごっこみたいなやつ?」


春休みの終わり。何気なく体育館を覗いたときの、友達の言葉。

その“ごっこ”という響きに、私は黙って首を振った。


「違う。……あれは、本気だよ」


もちろん、茉莉奈も最初は物珍しさから体験会に行った。

だが違った。


だって、その瞬間見たのだ。

藤井先輩の、無駄のない構え。風みたいに滑らかなステップ。

音を立てずに間合いを詰め、わずかな動きで一閃――


一拍置いて、相手の肩に“剣”が当たる。


決して乱暴ではない。むしろ静かで、洗練されていて、美しかった。


心臓が――ドン、と跳ねた。


それが、全部の始まりだった。


「構えてー、始めっ!」


莉乃先輩の声が響く。剣王会の主将で、男子からも女子からも人気の麗人。

私は先輩の背中越しに、今日も藤井先輩を見ていた。


先輩は今日も一言も喋らない。

でも、その一挙手一投足がすべてを語っていた。


練習のとき。手を抜くことは絶対にない。

相手が初心者だろうと、主将だろうと、全力で一本を取りにいく。


そんな姿が、私は、たまらなく好きだった。


(って……違う、違うから! 憧れ! 尊敬! それ以上じゃない!)


いや、でも最近ちょっと変な夢見るし、先輩が水飲むだけで謎にドキドキするし――


「茉莉奈、集中」


「わっ、莉乃先輩っ!? す、すみません!」


ぎゃー! すっかり妄想の世界にトリップしていた私に、主将から鋭いツッコミ。


「次、藤井。……相手、茉莉奈」


「……えっっっ!!?」


ちょ、ちょ、待って。私、今日の朝ごはんヨーグルトだけだよ!? 体力ないよ!?


「……構えて」


いつの間にか、体育館の中央。

気づけば、藤井先輩が、無表情でソードを構えていた。


(ああもう……逃げられない……!)


でも。

その目が「ちゃんと見てる」ってことだけは、確かにわかった。


「始めっ!」


息を止めて、私は飛び出す。


まだ技も何もない。勢い任せ。でも、だからこそ全力で――!


「甘い」


ふわ、と風が吹いた。


次の瞬間、私の手首に先輩の剣が触れた。


「一本!」


莉乃先輩のコールが響く。


たった一瞬。

なのに、世界が静止したような感覚だった。


動いてないように見えたのに、いつの間にか距離を詰められていて、

無駄なく、迷いもなく、正確に打ち込まれた一本。


(……これが、藤井先輩)


すごい。

すごすぎて、かっこよすぎて、もう、言葉が出ない。


震える手でソードを握り直す。先輩はまた、何も言わずに構えた。


「……もう一本」


低く、でもまっすぐ響く声に、胸がぎゅっとなる。


練習が終わる頃、私はもう、へろへろだった。

体力ゼロの私には、スポチャンの練習は地獄……でも、やめたくない。


なぜなら――


「……下手だけど、目、逸らさないの、いい」


体育館の裏手で水を飲んでいると、後ろから声がして、びくっとした。


藤井先輩だ。


「あ、ありがとうございます……!」


え、え? 今、褒められた? 私、藤井先輩に褒められた?(語彙力迷子)


「……でも、動きが雑。膝、浮く。重心、浅い。詰めが甘い」


「……あれ? やっぱり厳しい!!」


なのに、ちょっと嬉しいとか思っちゃう自分が怖い。


先輩がバッグを肩にかけたとき、私は見つけてしまった。

あのチャーム。ふわふわの、丸いキャラ。


「……それって、モコモンですか!?」


「……あ?」


「私も大好きなんです! あの、もっこもこ感と無垢な目がたまらなくて!!」


「……俺は、カゲモン派」


「えぇー!? あの陰キャモン!? いつも隅っこで地面掘ってるじゃないですか!」


「……うるさい。……黙ってるほうが、かわいい」


\ドゴォォォォン!!!/


やられた。今のは完全にやられた。


静かに歩き去る先輩。

だけど、去り際に見えた、赤く染まった耳――


(え、ちょっと待って。ずるくない?)


私まだ、恋愛レベル1なんですけど?

そんな高等テクニック使ってくるの、反則では!?


これはまだ憧れ。尊敬。恋なんかじゃない。

……でも。


この胸の高鳴りは、きっと、物語の始まりの音だった。

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