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第5話 まけてない

 率直に聞かれた俺たちは話さなければいけない雰囲気になった。


 ここは俺が話さねば。そう思い身を乗り出す。すると、武岩総長も身を乗り出している。アイコンタクトをしてここは引けといわれた気がしたのでひいてあげた。


「佳奈ちゃんや。パパががんじいの所で働いているのを知ってるな?」

「うん! がんじいは偉いんだよね?」

「そうじゃ。それでな、がんじいがお願いして」

「総長!?」


 俺が総長の言葉を止めようとすると腕を俺の前に出して止められた。総長の言おうとしていることは結果としてそうなっただけなのに。


「いいんじゃ……がんじいがお願いしてな、魔物を倒しに行ってもらったんじゃ」

「うん! 絶対倒してくるって言ってた!」


 その言葉が胸に刺さる。

 湧き上がってくる感情がある。


 (そうだよな。絶対倒してくるって、負けねぇって言ってたよな。そうだよ。なのにな)


「そうじゃろう? パパは強いからのぉ。ワシもな、大丈夫だと思ったんじゃよ。じゃがのぉ。魔物が予想以上に強かったようなんじゃ。パパは負けてしまったんじゃよ」

「ううん。パパはまけないよ?」


 佳奈の目は強く光っていた。俺なんかより強い目をしている。何か信念があるような。そんななにかを感じる。


「……ワシもな、そう思いたいんじゃがな。負けたんじゃ。殺されてしまったんじゃ。すまんのう」


 残酷なことを告げる総長の唇は震え、このか弱い佳奈にどう伝えたらいいかと迷いながらの言葉だったんじゃないだろうか。


 佳奈の目からは少しずつ涙が流れ始めた。だが、目を閉じることはなくずっと総長の目を見つめている。何かを信じているように。


「体はなくなっちゃったけどね、パパは、かなの中で生きてるんだよ? がんじいと、じんの中でも生きてる」


 衝撃を受けた。こんな五歳の子供が一体どんな心を持てばこんなに強くいられるんだろうかと。人生何週目だ?


「パパが言ってたの。もしパパが死んでも、必ずがんじいや、じんがたおしてくれる。だから、パパがほんとうのいみで負けることはないんだって」


 秀人がそんなことを言っていたなんて。五歳の子になんてことを言うんだ。だが、この子なら理解できると思ったんだろう。


 総長に視線を送ると震えて涙を流していた。やっぱり佳奈は最強だ。こんなに強いひとを泣かせるなんて凄い。


「そうじゃのぉ。その通りじゃ! ワシが、刃が、必ずや討ち取ってくれる!」


 歯を食いしばり涙を我慢しているがとめどなく流れている総長の横で俺も込み上げてくるものを我慢できなかった。莉奈は嗚咽して泣いていた。


「なぁ、莉奈。佳奈は誰よりも強いな? 最強じゃないか! 俺達は佳奈にジスパーダがなんたるかを教えてもらった!」

「そうじゃな。佳奈ちゃんや。また一緒にバーベキューしてくれるか?」

「うん! いいよ! じん! お絵描きしよう!」


 総長の言葉を軽くあしらうと俺とのお絵描きを所望してきた。それには答えてあげようと一緒にお絵描きを始める。


「ねぇ、じん? パパはどんな風に戦ってたのかな?」

「描いてやろうか? こういう、刀っていうものをもってなぁ。そんで、ズバッと斬るんだ!」


 俺は秀人のような人を絵で描きながら斬ったりする絵を描いてみる。


「ねぇ、この刀っていうのはまものをやっつける為のものなの?」

「あぁ。そうだ。パパの刀はな……俺が作ったんぞ?」


 俺が丹精込めて作った刀を使っていた秀人。あれはかなり思い入れがあった。めいまでつけて渡したものだったから。もし残っているのなら俺が回収しないと。


 あいつの気持ちも俺たちが背負っていくんだ。佳奈と莉奈の気持ちも全部ひっくるめて俺は背負っていく。俺ならやれる。その為には自分用の刀も必要だ。火力に耐えうるものを作らないとな。


「えっ!? パパのかたなはじんが作ったの?」

「あぁ! そうだぞ! 『神明』という名前を付けたんだぞ? 天地あまちと合わせると天地神明てんちしんめいとなるんだ。天と地の全ての神々という意味なんだ」


 秀人には説明をそこまでしていなかったが、あの銘を聞いてそれを察していた。頭脳明晰なあいつなら意味までちゃんと分かっていただろう。


「ふーん。すごいなまえをつけてくれたんだね! それなら、やっぱりパパは負けないね!」

「そうだな。パパは負けない!」

「そうだぁ!」


 子供らしい顔に戻った佳奈は楽しそうにお絵描きをしていた。秀人がいなくなったと分かっていてもこの冷静さとは。俺たちの立つ瀬がないな。


「良かったらご飯、食べていきません?」


 おばさんがご飯の誘いをしてくれた。俺は食べていこうかなと思っている。チラリと武岩総長の方を見ると悩んでいる様子だった。


「ワシは、帰りますわい。ウチの家内が作ってくれていると思いますので、では、失礼しました」


 頭を下げて自宅へと帰って行った。たしか総長には息子さんと娘さんが居るはずだ。家を出たと言っていたと思ったから、今は二人暮しなのだろう。


「じんくんは随分久しぶりじゃない?」


 小さい頃は遊びに来ていたが、大きくなってからは家は近いが疎遠になっていたのだ。


「そうですね。今日はいきなりきてすみませんでした。佳奈と話せて良かったです」

「こっちも助かったわ。こんなに佳奈ちゃんが強い子だったなんて知らなかったわ」


 佳奈を見ながらおばさんはなんだか嬉しそうにそう言った。


 やっぱり来てよかったな。


 佳奈の言葉で俺の胸の内にあった炎は更に熱を増したのであった。


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