この日は呼び出しを受けて会議室へ来ていた。座っている面々を見渡すと呼び出された人は俺だけではないようだ。
一応紹介されたが、聞き流していいだろう。
総勢七人の隊長と武岩総長が席についている。
胃が痛い。それには理由がある。この後に総長から俺が正式に刀剣部隊の隊長になると発表があるからだ。
「集まって貰ってすまないな。今日はな、先日牛鬼の討伐に行った部隊が全滅したのは知っているな?」
皆一様にコクリと頷く。
「牛鬼の討伐をするべく再び出動する」
「いよいよですかぁ⁉」
元気よくそう声を上げたのは萬田である。コイツが天地を送り出した張本人なのだ。俺は腸が煮えくり返りそうになり、拳に力が入ってしまう。
「そうだ。だが、ここで隊長の変更をする。萬田。お前は下ろす。刀剣班の現班長である武藤刃に兼任してもらうことになった」
萬田は歯を食いしばりながらこちらを睨み付けた。だが、俺も頭に来ていた為、正面から受け止め、殺気を飛ばして睨み返す。
「刃、貴様、俺に向かってなんて目ぇしてやがんだぁ?」
「どの口が言ってんだ? おまえのせいで天地が死んだろうが?」
「なぁんだとぉ? あれはアイツの実力不足だろうがぁ!」
その言葉を聞き、こちらの怒りもそろそろピーク。限界だ。この男をこのままのさばらせておくことはできない。これ以上の犠牲は出せない。
「武岩総長へ刀剣部隊は天地の一パーティだけでいいと進言したんだろう? 未知の戦力に対して、些か軽率な意見じゃないのか?」
「あぁ? 俺がわりいっていいてえのかぁ?」
「そうだろう。わかりづらかったか?」
「魔人になったからって強くなった気でいるのかぁ? 力の差をわからせてやろうかぁ?」
「はっはっはっ。おもしろいわぁ。自分が強いとでも思ってんのか?」
そういうと俺は部屋を出て訓練場へと向かった。刀剣部隊が訓練をしていたが突然隊長達が集まった為、異様な空気である。
訓練用の刃引きされた刀を手に取る。
「なぁ。俺は使い慣れた刀がいい。このままでいいかぁ?」
口角をあげてそういう萬田。よほど刀で俺の事を切りたいのだろう。
(どこまでも馬鹿なやつだ。自分の実力不足を露呈することになるとも知らず。まぁ、いいだろう)
「別にかまわない。その方がいい訳できないだろう?」
「きぃさぁまぁ! どこまで俺を侮辱すれば気が済むんだぁぁ!」
刀を抜き去ってぶん回しながら大声で罵倒してくる。
こいつは昔から気に入らなかったのだ。偉そうなうえに何もしない。戦闘ともなれば後輩に戦わせていい所だけ持っていくと聞き及んでいる。
こんな奴の下に秀人がいたかと思うと哀れでしょうがない。いっそのこと葬ってしまおうかと思ってしまう。
「御託はいいからかかってこいよ?」
「きさまぁぁぁ!」
真っ正面から最上段に構えた刀を一気に振り下ろしてくる。刃を合わせるように添えた。そして斜め下へと受け流す。摺り合って火花が散る。
体制が大きく崩れたが、俺は何もしない。
「うおぉぉぉぉ!」
今度は横からの大振り。
また刃を添えて上へと弾く。
大きく体制を崩すが、俺は何もしない。
「はははは! ビビッて攻撃もできないか⁉」
今の攻防でそう感じていたのかということに失望した。本当に何もわかっていない。使えない奴だ。戦いというものを。真剣を握るとはどういうことなのかという事を教えてやろう。
「うらぁぁぁ!」
あっちは渾身の袈裟斬りだったのだろう。再び受け流して床に刃を叩きつける。大きな隙ができた。俺は今までの鬱憤を晴らすことにした。刀に左足を乗せてゆけないようにする。その上でわき腹へ蹴りを入れた。
「お前! 卑怯だぞ!」
足をどかせると、刀を振り回し始めた。呆れてもう何も言えないので手首に刃引きされた刀を叩きつける。
──ゴキッ
「あぁぁぁぁ! 手があぁぁ!」
(うるせえな。秀人の苦しみはこんなもんじゃなかったはずだ。コイツは許さねぇ)
刀を振り上げる。こんなやつ大怪我しても構わねえ。
「
──バギッ
武岩総長の止める声を聞き入れながら刀を握った拳で顔をぶん殴ってやった。恐らく鼻はしばらく使い物にならないだろう。
「がぁぁぁぁ!」
泣き喚いている萬田。魔力を使うまでもなかった。
「麻里亜、連れて行ってくれ」
「しかたありませんわねぇ」
呆れたようにいう白衣を着たロングヘアの成須隊長。萬田が居なくなったところで刀剣部隊員達に向き直る。
「俺が今日から刀剣部隊の隊長になる。武藤刃だ! よろしく頼む! 魔物相手の戦いは慣れていた記憶がある。天地とは親友だ。今度の討伐任務は行きたい者だけにしようと思う! 行きたい者は今日中に俺の所へ来てくれ!」
そう宣言し、背中を見せて訓練場を後にしようとする。
「武藤隊長お待ちください!」
呼び止められて振り返る。皆の目はギラギラと今にも魔物を射殺しそうであった。
「我々の中に行きたくない者などいません! ただ、全員は連れていけないと思います! 選抜してください!」
「君の名前は?」
俺は今初めて刀剣部隊の面々にちゃんと会う。失礼だと思うが名前も知らない。だが、雰囲気でわかった。この男がこの中では一番強い。
「
「いきなりで酷なことはわかっているが、鎖那の信頼できるものを二名選んでくれ。大会議室で待っている」
それだけ告げると俺は訓練場を後にした。