僕と礼央は手を繋いで、フェンスにもたれかかっていた。山の稜線に沈みかけている夕陽が、僕たちを琥珀色の光で包み込んでいる。
僕は礼央の肩に頭を預け、オレンジと紫のグラデーションに染まった空を見上げた。そんな僕の髪を、礼央が指で優しく撫でる。礼央の肩と手から伝わってくる温もりを感じ取ると、幸せで胸が満たされた。
今まで人に甘えるということができなかった僕が、こうして礼央に甘えることができる。それが嬉しくて、胸の奥が熱くなる。
礼央の腰にそっと腕を回して、上目遣いで見つめながら言った。
「これから……どうしようか?」
礼央が不思議そうな顔をする。
「どうしようって?」
「えっと……学校でのこと。みんなの反応とか、気になるし」
すると礼央はくしゃりと笑って、繋いでいる手に指を絡めてしっかりと繋ぎ直した。
「俺は、凪と一緒にいられるんだったら、周りなんて気にしない」
礼央の瞳が、まっすぐに僕を捉える。
「でも……」
「俺たちが幸せなら、それでいいじゃん」
ね? と言いながら、礼央がこてんと首を傾げた。その仕草があまりにも愛らしくて、僕は思わず顔を赤らめてしまう。
やっぱり、まだ慣れない。なんといっても、初めて好きになった人で、初めての恋人だから。
――恋人……。
心の中でその言葉を反芻すると、さらに恥ずかしさが増した。
「あのさ……礼央は、恋人って言葉、恥ずかしくない? 礼央には彼女がいたから、そんなことないか……」
僕がしゅんと眉尻を下げて言うと、礼央は頬を薔薇色に染めて答えた。
「え? こ、恋人かぁ……」
礼央は耳の先まで真っ赤になっている。僕はその表情を見て、さらに恥ずかしくなって俯いた。
「や、やっぱり恥ずかしいよね……」
恋人という響きは、僕にとってまだ甘酸っぱくて照れくさい言葉だが、礼央と一緒だったら悪くない。それが嬉しくて、ふっと笑みがこぼれた。礼央も僕の顔を見ながら、同じように微笑んでいる。
「でも、嬉しいな。凪と恋人になれたの」
「うん。僕も」
僕は沈みゆく夕陽をまっすぐ見つめて、静かに口を開いた。
「礼央となら、本当の自分で生きていける」
僕の言葉を聞いた礼央も、優しく微笑みながら答えた。
「俺も。凪と一緒なら、なんでもできる気がする」
空は徐々にオレンジと深紫のグラデーションへと変化していく。僕は部活を終え、片付けをしている生徒たちを見ながら言った。
「明日から……変わるのかな」
「きっと。でも、俺がそばにいるから大丈夫」
僕と礼央は、まっすぐ前を見つめた。これからの未来を見据えるように。まるで新しい世界の扉が、今まさに開かれようとしているみたいに。