テーマパークの主役。それは、もちろんのことゲストだ。普段は陰ながら社会に貢献している彼女ら彼らも、テーマパークの門をひとたびくぐれば、主人公。プリンセスや王子様として、まさに夢の世界の主役になることが出来る。⋯⋯
それが、宗津麗(そうづ・れい)がモットーとしている考えであった。麗はデスティニーランドの一番人気のキャラクター「ポンピラン」のスーツアクターである。もちろん、バレードやショーが始まれば、麗が演じているポンピランにゲストの視線は集まる。だが、あくまで主役はゲスト。彼女たち彼たちの思い出の一ページを彩る、言ってしまえば道化にすぎない、と考えていた。
当然、ポンピランも麗ひとりでつとめているわけではない(その点は、某テーマパークとは違う。某テーマパークで、○ッ○ー○ウスは一人しかいないし、そもそも○ッ○ー○ウスは○ッ○ー○ウスであって、スーツアクターなど存在しないのだから・・・)。これは、あくまでデスティニーランドでのお話。
麗はその日も仕事を終え、バックヤードでポンピランの頭部を取り外していた。ポンピランの恋人役である「パンポンピン」のスーツアクターをつとめる中島美弥(なかしま・みや)と世間話に花を咲かせる。
「なんか、また、あの噂が再燃してるらしいよ」美弥が切り出してきた。
「噂?」
「ほら。古いポンピランの着ぐるみが、デスティニーランドの倉庫にしまわれてて、呪われてるってやつ」
「いまだに、そんなの信じてる人いるんだ」その時は麗も笑い話としか思っていなかった。
「やっぱり、ポンピランの宿命よね〜。パンポンピンは残念ながらそういう都市伝説はないから」
麗は指摘をする。「でもさ、その、古いポンピランの着ぐるみだっけ?それを着たキャストがみんなおかしくなっちゃった、っていう話?別に非科学的ではないんじゃないかな」
「どういうこと?」美弥は眉をひそめる。
「だってさあ、まあ、結構重労働だし、肉体的にだけじゃなくて、メンタルやられる人も多いと思う。だから、まあ、他のキャストよりは、おかしくなっちゃう確率的にいうと高そうじゃない?」
「え。なんか、都市伝説を分析されると冷めるんですけど⋯⋯」
「ああ、ごめん。ごめん」麗は笑って誤魔化したけれど、都市伝説にも何らかの根拠があるんだろうなあというのが持論だ。火のないところに煙は立たないのだから。
【つづく】