その日、急にキャストリーダーがバックヤードのスーツ部門にやって来て、こう告げた。
「きょう、急きょ、クラシックデーにするから」
一応、スーツ部門の先頭に立つ宗津麗がキャストリーダーに質問をする。クラシックデーというのは、デスティニーランドの最新のコスチュームではなく、ちょっとレトロな、過去に使われていたコスチュームでパレードをおこなう日のことだ。だいたいいつも告知なしでおこなわれ、デスティニーランドマニアの中では絶対に一度は見たいという名物企画なのだが、いかんせん告知がないので、本当に見れた人はラッキーというマニア垂涎の企画である。
「ちょっと。いくらなんでも、急すぎませんか?」と麗。
キャストリーダーは「いや。なんだか、今日、ここの立ち上げに関わった方がいらっしゃるみたいで。運営統括からの指示なんだよ」
「それじゃ、仕方ないですね」と麗は言い、他のスーツアクターたちに「やることは変わらないから。全力で頑張るだけだよ」と呼びかけた。
※
「え。私、これ着るんですか?」
麗がそう言うのも無理はない。なんなら、少し綿が飛び出しているのではないかというくらい、もはや骨董品の領域の着ぐるみポンピランだったからだ。
キャストリーダーは事も無げに言う。
「運営統括からの指示だから。文句あるなら、統括に言って」
⋯⋯。麗は思った。まさか、これがあの噂の呪いの着ぐるみじゃないよねえ⋯⋯!?
いや、いや。でも、そんなこと関係ない。何より、見に来てくれているゲストの前ではスーツに身を包み、全力でパフォーマンスをする。それが、プロなのだから、と麗は気持ちを切り替えた。
【つづく】