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第7話 DEATHティニーランド

 バックヤードでキャストリーダーが言った。

「今日、すっぴんDAYだから」

 他のキャストたちはそれを聞いて何の疑問も抱かず、そそくさと準備に移っていったけれど、麗(れい)と美弥(みや)は戸惑った。

「すっぴんDAY、って何ですか?」二人はほぼ同時にキャストリーダーに問いかけていた。

「はあ?いつもやってるじゃん」

 知らない。そんなの知らない。

「はい、はい。説明すればいいんでしょう?デスティニーランドのキャストのファンに向けて、着ぐるみを着ないで、素顔を出してパレードする日。以上」

 キャストリーダーは行ってしまった。

 (すっぴんDAY?)麗と美弥は顔を見合わせる。

「そんなのなかったよね」と麗は言い、

「あるわけないじゃないですか。誰がポンピランとパンポンピンの中身なんか、見たいんですか?」と美弥も同調。

 しかし、他のキャストたちが、粛々と準備を進めるなかで、二人には抗うすべがなく、素顔を晒した状態でパレードに出た。

 いつもは着ぐるみで覆われている視界がクリアーであると同時に、不思議と恥ずかしさはなかった。堂々とゲストたちが、見、え、た…?

 ち、違う。私たちに視線をくれているのは、ゲストたちなんかじゃない。み〜んな、ポンピランとパンポンピンだった。着ぐるみがパレードで素顔のキャストを見ている。

 立場が完全に逆転したのだ……。

 私たちは、この素顔のパレードを続けなければならない。今まで散々見せ物にしてきた着ぐるみたちの反乱だったのだ。このパレードが終わったらきっと殺戮が始まる。私たちに命はない…。パレードを続けなければ。素顔を晒して着ぐるみたちの前で踊り続けなければ。パレードは普通一周で終わるところを何周も何周も続き、朝から昼になり昼から夜になっていた。

 私たちは、素顔のまま笑顔を晒し続けなくてはならない。今まで散々着ぐるみを食い物にしてきた、報いなのだ、これは。

 私たちが、精も魂も尽き果て、力を失って、倒れこんだとき、着ぐるみたちは私たちを食い物にする。文字通り。殺戮が始まるのだ。

 もう限界を迎え、麗の恋人役の美弥が倒れた。

 フロート車に着ぐるみたちが群がってくる。みんな、手を伸ばし、あっと言う間に美弥を引きちぎってしまった。

 ごめんなさい。ごめんなさい。麗はそれでも笑顔で手を振り続けた。

 そっか。もう詰んでるんだね。


【終わり】

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