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あの子の装備は究極機竜 〜異世界、怪獣バトル特異点〜
あの子の装備は究極機竜 〜異世界、怪獣バトル特異点〜
暮寝イド
異世界ファンタジー冒険・バトル
2025年05月29日
公開日
2万字
連載中
『転移するあの子に、人類最強の装備を与える。私達には、それしかできない。』  ニホンから来た少女マナ。暴漢を一蹴し、物を喚び出す異能力を持つ彼女は、ニホンを守るため“巨大な生き物”を探す使命を帯びていた。そんなマナに助けられ、憧れと好奇心から同行を願う魔法使いのユリアム。二人は巨大生物の痕跡を追い、滅びた都市へと調査に向かう。瘴気に沈む廃墟の奥には、恐るべき脅威が潜んでいた。殺意の視線が二人を捉えたその時、マナの決意に灰銀の機竜が起動する……!  見よ、究極の戦闘マシン。  感じよ、少女たちの魂の共鳴。  今ここに、時空を超えた巨大決死戦(ギガンティック・デス・バトル)が幕を開ける!

第一章

第1話 闇を裂く旋光

 地上六千メートルに、裸の少女が現れた。

 意識は無い。墨を垂らした夜空に一人、白い裸体が落下を始める。鼓膜を震わす風切り音に、少女の瞼が開いたのは、落下開始から数秒後。


「っ!」


 黒い双眸にまず映ったのは、見知らぬ星々と、大小二つの月だった。首を回せば、迫りくる地表が見える。だが裸の少女は冷静に、ただ自身の状況を把握する。


 肉体に損傷無し。電磁気力消滅に伴う意識喪失は、おそらく数秒。

 現在位置は指定高度付近。地中でも、海中でも、宇宙でもない。誤差は想定範囲内に収まっている。

 成功だ。

 ならば、次は。


 身を切る冷気と薄い酸素をものともせず、少女は口と手だけを動かした。舌の鳴る音とハンドサインの直後、細く締まった身体を青い粒子が包み込む。

 光が消えると、少女は服を着ていた。


 無から生まれたその服装は、黒の長袖インナーとレギンスの上に迷彩柄のショートベストとショートパンツ。そして足には、無骨なブーツを履いている。


 その身体は時速二百キロの風圧を不自然に弾く。風に乱れるのは、黒いショートヘアと衣服のみ。

 腹ばい姿勢になった少女は、地上を見た。月下の大地はそれでも暗く、ほとんど何も見えはしない。だが目を凝らすと遠方に、橙色の光が瞬く。大小複数のそれはおそらく、街の灯りだ。


 突然、視界を大きな影が横切った。一拍後、響く唸りに空気が揺れて、少女がその身を固くする。


「!」


 月の光に照らされた何者か。その頭部には角が二本。赤い鱗に巨大な翼。四つ足で長い尾を持つ体躯は、全長二十メートルはあるだろう。


 それはまさしく“竜”だった。


 落下速度を合わせた竜は少女を睨みつけ、敵意を隠さない。それは、己の縄張りに侵入した不届き者を見る眼だ。

 広げた翼が空を掴み、どん、と空気が爆ぜる音とともに、竜が突っ込んできた。鋭い牙が、少女に迫る!


 ――が、竜のあぎとは空を切った。どういうわけか、少女は突然減速し、竜の突進をやり過ごしたのだ。やったことと言えば、服を着たときと同様に舌を鳴らしただけ。


 不満げに唸った竜は、その身をうねらせターンした。今度は、落下する少女を追いかける形だ。もう減速回避は通用しない。


 少女は体を反転させ、迫りくる竜と相対した。その手元に青い粒子が集まり、何かを形作る。

 銃だ。

 小銃のように見えるが、形状や口径は既存銃器のどれとも違っている。その引き金にかかった指に、ほんの僅かな力が入る。


 がしゅっ、という銃らしからぬ音とほぼ同時、竜が悲鳴を上げて悶えた。顔面に、少女が撃った散弾を浴びたのだ。


 即座、少女は身体を地上に向け、重力への抵抗をやめた。ごう、と体が空気を破り、耳元で風が暴れる。落下速度は時速三百キロ超。地上まで三十秒とかからない。


 背後から咆哮が轟く。怒り狂った竜が、瞼から血を流しつつ追ってくる。振り返った少女が顔をしかめた。


「仕方ない……」


 銃が青い粒子になって消えた。代わりに少女の右掌から、細長い半透明の直方体が飛び出す。小さなそれを左手に突き刺すように両手を合わせ、捻った。

 地上二千メートルに、鍵を回すような音が響く。そして少女は、呟いた。


「起動」


 言葉が波紋を広げるように、周囲の空間が歪んだ。


 青い粒子が渦を巻くように形をなし、灰銀かいぎん色の金属塊となった。それらは金属音を響かせながら互いに繋がり合い、一つの形を成していく。


 わずか数秒でパーツ群は少女を包み込み、頭と四肢と、長い尾を持つ巨大なシルエットと化した。それは竜を遥かに上回る、圧倒的な大きさだ。身を捩るだけで風が逆巻き、関節のきしみが空気を揺らす。


 両眼に青い光を宿したそれは、各所から地上に向けて青白いプラズマを噴射する。甲高い噴射音とともに、巨影は地上千メートルでホバリングした。


 追いついた竜が、周囲を旋回する。巨影に怯まず吠えた直後、その口内に炎が揺らめき、溢れ迸った。


 竜を最強たらしめる灼熱の吐息ブレスが、巨影を直撃した。


 必殺の炎を吐き切った竜は、しかしその目を見開いた。炎を弾いた灰銀色の体表は、月光を孕んで鈍く輝くのみ。焦げ跡すらも、付いてはいない。


「この生き物は……違う」


 内部で少女が呟くと、今度は巨影の口が開いた。喉奥、左右二か所に光が集まり、その輝きが青から琥珀色、そして白へと変化する。


 次の瞬間、光の二重螺旋が夜闇よやみを裂いた。


 軌道上にスパークが走り、空気の焦げる匂いと音。それは光跡のすぐ横にいた竜にも、確かに感じ取れただろう。直撃していれば、自分がどうなっていたかも。


「これで分かったはず。逃げてくれれば……」


 地上まで数百メートル。威嚇射撃の意図を理解したのかは定かではないが、不満げに喉を鳴らした竜は翼を翻し、夜空の彼方へと飛んでいった。

 竜が去ったのを見届けると、巨影は青い粒子となって消えた。


 首元だった場所に、少女がいた。そのまま落下し、地表の目前でまたあの空中制動をかけた。

 遥か高空から落ちた少女は、まるで階段でも降りるかのように着地した。夜の平原に一人立つ、その右胸には日の丸と、横線の上の一つ星。そして金字の刺繍がある。


“藤沢麻奈マナ MANA.FUJISAWA”。


 名前だ。

 少女……マナは再び銃を出し、何かをストックの下部に押し付けた。かしゃん、という音。装填された銃を構え、姿勢を低くして辺りを警戒する。前、左右、後ろ。動くものは見えない。上空も見るが、あの赤い竜はもうどこにも見えなかった。


 マナは銃を構え、夜の平原を走った。まばらに生えた木の一本に、背中を預ける。ハンドサインの直後、ソフトボール大の球状物体が現れた。灰銀色の表面は、先程の巨影と似ている。かすかに聞こえる駆動音は、プロペラのもの。空中に浮遊するそれは、ドローンだった。


 飛び立ったドローンは、地上千メートルで停止した。その視界は、マナと共有されている。


 周囲は平原、少し離れて森、その遥か遠くに山脈が見える。視界を回すと、森の反対側にあの橙色の灯りが小さく見えた。


「……」


 ドローンを戻して消すと、マナは目を閉じ、深呼吸する。

 知らない世界の匂いを吸い込み、少女は思う。


 ――まずは、情報収集だ。そして、水と食料の確保。


 マナは目を開けると、灯りの見えた方向へ歩き出した。ブーツが下草を踏む音だけが、夜空へと溶けていく。

 二つの月は、沈み始めていた。

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