朝のチャイムが鳴りきる寸前、教室の空気はピンと張り詰めていた。
春の陽差しが教室の窓ガラスを跳ね、白いシャツの肩口に小さな光の粒を踊らせている。蒼馬は、まだ使い慣れない高校の机に肘をついて、その光をぼんやり見つめていた。
「なあ、蒼馬。今度の転校生、知ってるか?」
声をかけてきたのは、いつもテンション高めの友人・元気だ。名前に違わず、とにかく声がデカい。
「知らない。興味もない」
「あー出た。冷静キャラ。でもお前、前の中学でも転校生と仲良くしてたって噂だったぜ? また属性ハーレム狙ってる?」
「うるさい。狙ってない。そもそも、属性ってなんだよ」
そこへ、教室のドアがゆっくりと開いた。
「お、お待たせいたしました……ご、ごきげんよう、皆様」
静まり返った空間に、妙に浮世離れした挨拶が響いた。
そこに立っていたのは、黒いロングヘアに白いレースのカチューシャをつけた少女だった。
――メイド服。
それも、フリルとリボンがやたらめったら多いやつ。完全にコスプレ会場か、執事喫茶のそれだった。
「えっ、あの子……転校生?」「ってか制服じゃねーの!?」
男子たちは目を見開き、女子たちは凍りついた。
「転校生の香(こう)さんです。ご家庭の事情で――」
担任の先生が慌ててフォローに入る。
「じ、自立支援、ってやつね? で、でも普通の子ですからね? あ、席は……あー……蒼馬の隣で」
一斉に教室の視線が蒼馬に突き刺さった。
「またかよお前!」
元気が爆笑しながら肩を叩いてくる。蒼馬は深くため息をついた。
香はゆっくりと歩いてくると、ぴたりと蒼馬の席の横でお辞儀した。
「これより、あなた様のご命令を最優先とさせていただきます。ご遠慮なく、お申しつけくださいませ――ご主人様」
「……俺、今日、欠席すればよかった」